初代マスタングが3億7000万円で落札! 暴騰した意外な理由とは?
1/29(水) 21:04配信GQ JAPAN
2018年におこなわれた英国「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」での走行シーン。
アメリカでおこなわれたクラシック・カー オークションで、初代マスタングが330万ドル(約3億7000万円)で落札された。
一見するとなんの変哲もないクルマであるが、実は超有名映画にかんするクルマだった!
【写真を見る】超有名ハリウッド映画の劇車だった!?
故スティーヴ・マックイーンの代表作に登場!
1964年から1968年まで生産されたフォードの初代「マスタング」は、全世界のクラシック・カー マーケットで人気を
集めるモデルだ。歴史的ヒットになった量産車であったので、かのキャロル・シェルビーが手がけた一連の
「シェルビーGT」といった、一部の特別なモデルを除いては、比較的リーズナブルな価格で手に入れられるのも、
人気を集める要因だ。
そんななか、1月2日〜12日までアメリカ合衆国フロリダ州キシミーにて開催された「ミカム(Mecum)オークション」に、
驚くべき初代マスタング(1968年型)が出品された。1968年型のマスタングGT390は、通常ならば最高のコンディションを
誇る個体であっても10万ドル(邦貨換算で約1080万円)には届かないほどで売買されるものだが、このマスタングは、
なんと330万ドル(約3億7000万円)という驚異のハンマープライスを叩き出した。
その理由は、ただひとつ。このGT390は、全世界のアメリカ車エンスージアストのみならず、映画ファンたちも長らく
その行方を追いかけてきた1台だったからだ。1968年に公開され、主役を演じた故スティーヴ・マックイーンの代表作として
も知られる『ブリット』の劇中で、伝説的なカーチェイスを展開した“あのグリーンのマスタング”そのものだったのである。
出品されたマスタングGT390の後半生は、長らく秘密のヴェールに隠されていたという。サンフランシスコを舞台とする
カーチェイスで、マックイーン自身が運転したマスタングは2台あったとされるが、そのうちの1台は事故で廃車になっている。残された1台は、映画宣伝ツアーの展示に供されたのち、この作品に参画した脚本家のひとりに譲渡された。
その1年後、ある刑事がこれを買い取ったという。その後1974年には、故ロバート・キアナン氏が入手し、
以後はキアナン家のファミリー・カーとして使われたという。
この個体についてはマックイーン本人が1977年に購入を申し出たにもかかわらず、キアナン氏はそれも固辞して
所有し続けた。ところが、1980 年にクラッチのトラブルによって走行不能となったことから、長き休眠状態に入ることを
余儀なくされた、とされる。
それでもキアナン氏は、この個体を正しいかたちで後世に遺すべく、今世紀に入った時期にレストアを決意しつつも、
2014 年に死去する。そして、子息のショーン氏が亡父の遺志を受け継ぎ、内外装は撮影時のオリジナルを保ったまま
機関部のレストアを完成し、2018年にふたたび、日の目を見ることになったという。
完成後は、現行型マスタングに設定された「ブリット」仕様限定バージョンのPRに登場したほか、北米の
「アメリア・アイランド・コンクール」や英国の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」などのビッグイベントを舞台に
世界ツアーを敢行している。筆者自身も2018年夏のグッドウッドにて、その雄姿と走りを拝むことができたのは、
まさに僥倖と言えるだろう。
そして2019年末、ミカム・オークションへの出品がアナウンスされた。エスティメート(予想落札価格)の設定はなかったも
のの、オークション8日目となる1月10日におこなわれた競売では、実に330万ドルの価格がつき、オークショネア側に
支払われる手数料を合わせれば374万ドル(約4億1000万円)という驚異的な高額で落札された。
コレクターや、いわゆるカーハンターたちが“失われた聖杯”のごとく探し求めていた“ブリット・マスタング”は、
かくして新たな歴史を歩むに至ったが、新たなオーナーがこのヘリテージそのものの1台に相応しい活躍の場を
用意してくれるのを、心より願ってやまない。
文と写真・武田公実