第一楽章  事のはじまり

 あれは確か1990年の事だと思いますが1本の電話から始まりました。

要点をまとめると「XR600で中山サーキットでロードのシングルクラスに参戦してきたが

良いとこ6位止まりで このままではこれ以上良い成績が望めそうも無い、そこでXRの

チューニングと言えばヴァイタルだと言う事で相談に連絡しました」と言う事でした。

その頃 オフロードに力を入れてレースに参戦していましたが ロードのノウハウはまったく

無く気は進まなかったが 新たな分野にイッチョ噛みする事は大好きなのと 自分の力が

どこまで通用する物か試すには良いチャンスだと思い 共に勉強してみましょう と言う事で

始まりました。はじめからの注文が”すべてお任せしますので 好きなようにして下さい”

と言う事でしたので 気楽に作業を進める事が出来ました。

 聞いた話によると 中山サーキットは直線は少なくコーナーが多いと聞いていました、

ライダー御本人も ピックアップが良い方が好みだと言う事で 今までウチが得意とする

チューニングをフルに投入しました。

 まず 腰下から フライホイル超軽量 パルス進角加工 

HRCφ100鍛造ピストン ポート研磨 バルブ軽量 バルブ強化スプリング 

ホワイトブロスオールラウンドカム キャブはCRが付いていたところをPJ38に変更。

要はボアアップに いまで言う”通勤快速”を組んだものです。と言っても 250クラスには

お手軽ですが 600ccクラスにこのヴァージョンは結構強力です。この仕様でこの1年

レースに参戦することになりました。練習でこの仕様の味付けは好評で コーナーからの

立ち上がりで 随分タイムが稼げると言う事でした。

 そして 初戦。このシーズンを飾る大事なスタートです。そもそも外見がオフロードの

ままの姿エントリーしたマシンで実績を残した例は無く 個人の楽しみやコダワリでたまに

参戦していると聞いていました。主流はTZ250にSRX600にエンジンを搭載したマシンで

チューニングパーツも モリワキ、ヨシムラから山盛り出ていましたので無理も無いでしょう。

しかし この頃はGB500ベースでエントリーしてきているマシンは少数で XRベースは

もちろん1台だけでありました。予選 予想に反してポールポジションで グリッドの最前列

に並ぶ事になった。そして 決勝、一斉スタートで 我らがXR600、オフロードのクロス

ミッションが幸を相し 加速が良くホールショットで第一コーナーへ。レースの展開は

そのままでトップを死守し チェッカーを受ける。初勝利だ。ゆうゆうと表彰台へ向かった

ところ”フライングによる失格”と言う判定で 順位が繰り上げになり 抗議はしたものの

判定は覆りませんでした。本人曰く「スタートでは 横のマシンがスタートしたので慌てて

出た、それに スタートの合図がシグナルと日章旗同時に振られるので どちらを基準に

して良いか分からない、おそらく こんなオフロードマシンがシングルレースで勝つ事が

許せなかったんじゃないの」。悔しいけどしょうがないと言う報告を受け 釈然としない

結果でした。

 迎える第2戦、勿論またポールを取り 決勝へ。先回の教訓を生かし スタートは完全に

他のマシンが出たところで スタートをきる。しかし ゆっくりしすぎて6番手まで落ちたが

1周に付き1台を抜き去り 最終ラップでトップに立つ。これで文句無い優勝をもぎ取った

のでした。そして そのシーズンは連勝に次ぐ連勝で 年間チャンピオンを取得出来まし

た。

−−−−−−−→日を改め 続き

この1年間で 色々な問題定義される項目が出てきます。

・ブレーキングでのノーズダイブによる車体の重心変化。

 そもそも RVFシリーズを製作以来、社外品を極力使用せず 加工や純正で使える

パーツで いろいろ試して自分のところのノウハウをより多く蓄積する為に行う事を

心情として来ました。エンジンにしろ ポート形状によるトルク変化やフィーリング、サス

ペンションの味付け ダンパーとバネレートの関係、ライディングポジションの変更による

体重移動スペースや乗車重心等々、1台のマシンをより戦闘力あるものに効率良く性能を

引き出す為に挑戦する事に 難しいながらも挑戦する事でレースと言う場を借りて走らせる

ことで磨かれる”ノウハウ”と言う財産を増やしていこうと思いました。そうする事で いつ

いかなるモノにも 即座に対応出来る技術力、発想が培われる事と信じています。

 サスの話に戻りますが 特にフロントのノーズダイブが著しく強化する必要が有る。

バネレートを増し ダンパーの特性変更を行う事にする、バネレート変更は使える物が有り

問題は無いがダンパーが曲者です。インナーパイプのオリフィスを加工するのですが

材質が薄いアルミ製ですのでアルゴンで火を飛ばすだけで溶けて穴が開いてしまいそうな

難儀なものでした。オフロードでもインナーパイプのオリフィス変更は行っていたので今から

どの様に絞って良いかは分かっていましたが スチール製で難無く加工は出来ました。

しかし 0.8mmほどの薄肉のアルミの穴を埋め 穴の開け直しは至難の技です。

解決策は金属の融点の違いを利用して スチールのパイプをインナーにピッタリに旋盤

加工し圧入し穴を内側からふさぐ、そうして穴をアルゴンでふさぎ冷えるまで待ち スチール

パイプを外す事で内径がピッタリの埋め方が出来たのである。仕上げは旋盤で 埋めた

デコボコを削り落としストレートパイプが出来あがった。初期の作動性はソフトに そして

10cmほどストロークするとグッと踏ん張るオリフィスを加工し こうしてフロントサスは

出来あがった。リヤサスはフロント同様の動きになる様にO/Hをした。

・さすがに1年の内で ヒト月2度の練習走行と年間10レースを行うとパワーダウンが

目立ち、年1度のオーバーホールを義務付けとする。そこでオーナーの注文は”どうせ

やるなら オーバーホールの度にパワーアップしてくれ”と言う単純だが 非常に難しい

注文でした。

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