このヴァイタル スピリットには私の前に先代社長が居ました。
私が26の時この京都に来て間もない頃 ヴァイタル スピリットとして
XRの宣伝を兼ねて夏のお盆に富士山の麓「本栖12時間エンデューロ」に出る事になった。
キャメルが冠の大きなレースでした。
マシンはお店で下ろした試乗車‘86 XR250R、シングルキャブになって初期のモデルだ。
PJキャブ以外はフルノーマル、タイヤ規定はピレリMT17装着の事。
私は京都で店を開きお留守番 大将自らライダーとしてエントリー、
その他 店の常連十台ほどの大勢で行く事になった。
当時唯一仲良くしていた関東のショップと合同チームをつくり大所帯での参加。
エントリーが決まり 当日まで店に集まる常連の会話はそのことばかり
12時間を一人で走る規定で 考えるだけでも大変なレースだということが分かる。
今までの最高が一人で6時間のレース それでもめっちゃキツかった。
ひとりで12時間なんて 走った事が無いのでどんなに過酷か想像がつかない。
私は行かないので「大変だなぁ〜 まぁがんばって」と至って人事。
レース前日になって大将から「僕 行けなくなったから田口君頼む」と・・・
勿論 バイクと経費は持つから
でも 店の威信を掛けたレースだから ちゃんと成績を残して欲しい と言う。
「遊びじゃないから 田口君分かってるね」と すげ〜ぇプレッシャーを掛けてくる。
断る選択肢は無いので急遽ヴァイタル代表で行く事になった。
積車を借りてマシン10台を積んで いざ富士山へ
本栖の特設コースに着くといきなりギャラリーから注目を浴びていた。
‘86XR250Rをはじめ ‘85XR ヤマハIT200 TT250R KDX200R と
蒼々たる逆輸入車ばかりを積んだ積車が来たのだ。
エントリーの多くは国産トレールばかりの中で 雑誌でしか見た事が無い逆輸入車のオンパレード。
「お金持ちの集団が来た」と誰かが言っていたのが聞こえた。
いやいや お店のXR以外みんなローン組んで買ったものばかりだ。
関東のショップと合流し作戦会議
2時間おきにピットインするが サポートするスタッフが少ないので
上位を走っているものだけを優先して作業をやっていくと言うものだった。
サポート内容は 燃料の給油 エアエレメントの交換 エアチェックなど
その十分ほどの時間 ライダーは体を休める事が出来る。
サポートを外れると 全部自分でやらなければならないので休む時間が無い、
どれだけ休んでも自分の自由だが それだけ順位は下がっていく。
エントリー台数350台ほど 全国から集まってきている。
朝9時から夜9時までの12時間
コースは一周約6kmでほとんどが火山灰 火山岩 それに地形の起伏はあるが
急な登りや下りは無い、飛ばせるコースではあるが尖った火山岩があちこちに
顔を出しているので パンクの恐れや 転倒での怪我がきつそうだ。
いざスタートすると土ホコリがきつく視界の確保が難しい。
2時間経過 ヘトヘトになりピットイン、順位を聞くと7位と言う、
サポートはテキパキとやってくれている。
2時間おきのピットイン
2回、3回のピットインでもサポートはしてくれた、と言う事はまだ上位にいると言う事だ。
6時間を経過したところで ピットからサインボードが出た。
「あと6時間」
まだ半分しか経過してなくて あと6時間も走らなくてはいけないと思ったら 気力がガクッと落ちた。
次にピットに入ったらサポートはついてくれなかった。
どうやら順位は十位以下に落ちたらしい。
全部自分でやらなくてはいけなかったのでかなりきつかった。
それと残り1時間まで記憶が飛んでしまって まったく覚えていない。
その1時間で飛ばせば3周は走れる
そのペースなら結構上位に食い込めるかも・・・
気合を入れ直して走るが回りはもう日が暮れていて 街灯も無いので漆黒の闇。
こういう時に限って順調に走っていたが 転倒してしまった。
ヘッドライトが唯一の頼りだが バッテリーレスなのでエンジンが止まると消えてしまう。
真っ暗の中 足場もどんな形なのかも分からない。
バイクを何とか起し エンジンを掛けようとするがなかなか掛からない。
どれだけ時間を食ったか分からないが10分ほどはロスしただろう。
結局2周しか走れなくゴール。
レース終了の花火がすごく綺麗だった。
完走した安堵感で一気に疲れが出てきた。
立っている事もだるく 目と鼻が痛い 手は握力が無くて小刻みに震えている、
鼻をかむ度に黒い汁(火山灰)が出てくる。
かんでもかんでも黒いものが無くならない。
結果 我がチームヴァイタルは3位のKDX 7位が私のXRだった。
表彰は10位まで
ロスした1周が無ければ・・・
レースには“たられば”は無い。
反省はしても後悔は無かった。
着替えでウェアを脱ぐとカラダも真っ黒 繊維を通り越した細かい火山灰が入ってきている。
早く旅館に戻ってお風呂に入りたい
早々に引き上げ旅館に到着。
すぐに風呂に入り カラダを癒す
食事で驚いたのが どれも味がまったくしないのだ
コレはカラダがおかしくなっている。
即就寝
朝 目が覚めるとカラダが痛くてまったく動けなかった。
何とかカラダを起し 歯磨きも朝食に行くも階段の上り降りが地獄だった。
便所に行って驚いた、水のようなビチャビチャの下痢便が少量出た 色が緑色。(消化された火山灰)
う う うっ・・・
オレのカラダ どうなってるんだ?
帰路はまずまずの成績を上げる事が出来たので 意気揚々と帰って来れた。
後に分かった事だが 大将は勢いで出るとエントリーしたものの
よくよく考えると怖気づいて コレは大変だ 行きたくないなぁと 急遽私に振った事が分かった。
でもしばらくバイクはいいかな と初めて思った。
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