いよいよ腰上に入ります。

組む予定の各パーツの紹介をしてみよう。

このベースはすでに270ccになっていた為 1オーバーボーリングを施しシリンダーをリセットします。
(今のところ このボーリングの後はあと1回ボーリング出来る余裕はあります)

勿論 ボーリングは超細密加工です。


クロスハッチ 超細密加工

この細密ホーニングの効果で当たりが出て以降 クリアランスが広くなっていく現象を低減する事が出来ます。


ME08とMD30のボアストロークは同じです、違いがあるのは圧縮比だけではありません。

造りがまったく違うのです。


左図:このピストンはME08ですがサイドに軽量化を兼ねた冷却の穴が設けられている。
右図:またME08のピストンピンは
□赤でMD30は□黄 MD30の方が長く重い。
MD30ピストンは円筒形でME08のような軽く作る為の複雑な形状はしていない。

製作コンセプトが違うとこれだけの差が生まれてくる 性能やフィーリングが変わってくる訳です。


このSPには270ccを採用するのでその詳細を説明します。

ピストンには2つのスリット加工を施工。

ボアアップピストンの多くは鍛造製で鋳造に比べ暖まると鋳造の倍以上膨らみます。(メーカーにより異なる)

ですのでボーリングの際 張り付き防止の為大きなクリアランスで仕上げる必要があります。

大きなクリアランスで仕上げると圧抜けやオイル上がりが出やすくなります。(オイル消費大)

ウチで用いるピストンは鋳造製でノーマルの材質と同じですのでシリンダークリアランスも鍛造ピストンの半分以下で

済みオイル消耗を防げます。また重量もノーマルに近いのでクランクとのバランスも保てる訳です。(振動低減)

ピストンがシリンダーに入っている状態では ピストンピン周りに独立した空間が出来ます。

ピストンの高速運動時にかなりの高温になる為 急激にピストンが止まるような時に

ピストンのアルミ素材が溶ける事があります。それを防止する為上映像↑のように

クランクケースに通じる穴を設置することで防止出来ます。(ME08と同じ効果)

またピストンピンにオイルを供給するポートにもより多く回るよう加工済み。

     =ピストンスリット加工= (これらの加工はすでにクルマやバイクのワークス仕様で採用されています)

     ・コンプレッションスリット ⇒ オイルリングより上のランド部分に溝切り加工する事で爆発圧を減圧させリングの

                       耐ちを向上させる効果があります。

     ・サイドスリット ⇒ オイルリングより下に溝切り加工する事で通常ではソコにオイルが溜まりフローティング効果が

                 あり摺動抵抗も低減出来ます。万が一オイルが少なくなった時には溜まったオイルが焼き付きを

                 延命させ シリンダーに致命的な傷が入り難い効果があります。


ピストンピンはスチール製で容積が少ない割には重量が増す部分です。

ピストンは上下運動しますのでフリクションの低減の為なるべく軽くする必要があります。


270用ピストンピンは61g 軽量ピストンピンは55gと6gの軽量化が出来ます。
この6gがどれだけ重要かチューニングされてきたユーザーさんには分かると思います。
比べて乗る事が出来れば違いは体感出来るほどの差はあります。

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なんだかんだと時間が空いてしまって申し訳有りません。

作業続行です。


カムシャフトを前に紹介したHardcamからHOTCAMに変更します。

その理由はHOTCAMのスペックはもう言うまでも無く 今現在でも主力アイテムです。

このMD30の性能を永く維持する為にWPC加工を施したHOTCAMが最善かと思ったからです。


このタイプのHOTCAMはカムホルダーをノーマル流用するもので 従来型よりも軽い。(すでに左に統一)


カムベアリングには左側にシール機能は要らないので抵抗の少ないベアリングに変更


ロッカーアーム全交換に加えロッカーアームシャフトも中空タイプに変更。
左側は使用済みのシャフトでロッカーアームが当たっている部分が段減りするので同時交換が必須。


オートデコンプを機能させる排気右側ロッカーアームが非常に重い。

HOTCAMはオートデコンプ機能が無い為このツバは必要ないので

軽量化を兼ねて削除。


生廃となってしまったアントライオンタペットキャップ
(シルバー)


カムスプロケットは通常軽量タイプを使いますが よりハイレスポンスやアクセルの“つき”を重視している為

MD30のノーマルより軽量で“しなり”が出難い軽量強化タイプを用います。


左図:軽量タイプ 右図:軽量強化タイプ

軽量強化タイプは通常250改300・XR400RやXR650Rをチューニングした時にしか

使いませんが 狙うエンジン特性を考慮してこちらを採用。


続いてヘッドに入ります。

ヘッドポーティングですが主に高速を回す為にあると誤解されがちですが

中低速のトルクアップ、レスポンスアップにもかなり効果が出ます。

勿論 その効果が出るように部分部分の役割を把握していないと実現出来ません。

ヘッドがうまく性能を引き出せるかどうかの“要”です。




燃焼室表面もポリッシュします。


MD30・ME08ヘッドは旧ME06系に比べ表面積が大きく(冷却) ポートもストレート(レスポンスアップ)構造、

ポート断面積も大きく出来ています。反面製造場所が変わった為 吸気の支柱形状やシートリングの段差

バルブガイド周辺の肉付きが大きくもなっています。

それらの段差をスムージングするのは勿論 シリンダーに入っていく吸入角が理想値に近づくよう切削研磨していきます。

また吸気・排気ポートの比率が理想値になるように修正もしなければなりません。



ポート拡大に伴いインマニとポートの段差を修正


ヘッドに上がったオイルはカムを通り(左から右へ)各ポートから噴出します、

熱が溜まり易い右半分はセンターの壁に仕切られて溜まるような構造になっています。

ヘッド上部表面にディンプル加工を施し より多くの熱をオイルに移し冷却効果を上げます。


バルブも勿論軽量&ポリッシュ


チタンリテーナー付強化バルブスプリング
(取扱中止)


次は腰上の組み上げ作業です。

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ピストン・シリンダーを組み込み リング配置は高速用に設定

AI栓はアントライオンに6o軽量スチールボルト


バルタイ調整の根っこ 本当の上死点を測定。


ご覧のとおりこれだけのズレがある。


続いてヘッド バルブ摺り合わせは圧縮維持の為細めにし

ヘッドASSY組み上げ。

赤○はNEWタイプ強化6oロングスタッドボルトに変更


続いてHOTCAM&強化カムスプロケット組み込み

詳細はお見せ出来ないがバルタイ調整済み


インレット側タペット


エキゾースト側タペット

プラグは抵抗ナシの♯9を取り付け。

ヘッドカバー6oボルトも軽量タイプに変更。


=完成=

すでに絶版のオーバークーリングシュラウドも装備。

全景はこちら

ここまで通常一般のユーザーさんが依頼されたとすれば概算工賃込み¥375.910‐(税別10%)也
※キックパーツ(セルレスキット)は含まれません。
参考:セルレスフルキット・・・¥102.309-(税別) ⇒ 当時価格


さぁ エンジンが組み上がったところでフレームに載せていくわけですが

その前にリアサスのデルタプロリンクを先に製作しておけば同時進行出来ます。

次はデルタプロリンク製作です。


車輌製作状況に続く

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