後世に残せる1台を作る為に

“後世に残せる1台を作る為に” MD30ユーザーさん達から依頼があった。

RVS300R INTERCEPTER TYPE-R を製作して随分経ったが 今 出来る限りのやり方で

より高出力 耐久性を両立、兼ね備えたパワーユニットを製作してみる事となった。

ちなみにRVS300Rスプリント仕様はダイノジェットでエンジン換算 42PSを測定している。

製作の根本は1.)ダイレクトにパワーを上げるものの選定 2.)ソレを補助するもの 3.)保護するもの

この3要素をバランス良く組み合わせ組む事でハイパワーで耐久性のあるパワーユニットが造れる訳です。

今回は今出来る最高峰のやり方で造りますので各パート何ランクも上の手法で考えています。

------------ and -----------

まずは下準備

250を300化する為にはエンジン全バラから始まる、300のピストンキットはノーマルシリンダーボーリングでは

スリーブが無くなってしまうので300兼310専用スリーブを入替えなければならない。

そのスリーブはノーマルクランクケースには大き過ぎてそのままでは入らない。

クランクケースの300専用スリーブを入れる為のボーリングから入る。

ボーリングすると切削片が出る為 ケース内のベアリングすべてを外して行う事となる。


まず300専用シリンダー製作


右が抜いたノーマルスリーブ

 ・ノーマルスリーブをシリンダーから抜いて シリンダーを300専用スリーブが入るようボーリング加工

 ・ノーマルスリーブのように上部が段になっており 同じ構造に段付きのボーリング加工をする。

 ・スリーブ圧入後 上面を面研(座が沈む事を踏まえ実施)

 ・スリーブスカートをノーマルと同形に加工(クランクウェブの逃げ)

 ・ピストン&リングに合わせ規定(ノウハウ値)のクリアランスにボーリング
  勿論 ホーニングは超細密加工
(ピストンは修正値に合わせる)

シリンダーが完成するとクランクケース加工(ボーリング)に入る


加工後 300用シリンダーを仮合わせ



スリット加工はコンプ、サイド共実施済み

コンプレッションスリット:リングに至るまでの爆発圧を減圧しリングのライフを延ばす役割
サイドスリット:通常はオイルが溜まりピストンをフローティングさせ摺動抵抗を低減
非常時はダキ付きや焼付きを極限まで遅らせる効果がある。

社外品鍛造ピストンは純正鋳造ピストンに比べ膨張率は高く精度が低い

メーカーの特性を把握し それの応じて対応しないとノーマルとは比較にならないほど耐たない。


ヘッドは300用ヘッドポーティング(270用とは異なる)



インマニとヘッドの段差も修正するがキャブとの段差も修正


バルブは軽量加工&ポリッシュ

バルブの当たりは高圧縮に耐え得るよう面圧を上げる為細めに。

未だ エンジンの中で一番無駄な動きをしているのがバルブとピストンです、縦往復運動には

低いレベルで限界が有ります、一番効果的なのが重量をなるべく軽くする事。

コンマ何gでも軽いに越した事が無いパートです。

------------ Separate case -----------

WPC加工を必要なパーツに実施。

※当店では経験上 WPC加工は低回転で極圧が掛かる部分に効果を発揮する作用があると判断している。

HOTCAM ST‐U に実施


オイルポート加工も同時に施工


300用軽量ピストンに実施



シフトフォーク シャフト ドラムに実施


メインシャフト上のすべてのパーツに実施


カウンターシャフト上のすべてのパーツに実施


事前にシャフトの振れ取りとバックラッシュは取っておく

その後 WPC加工を実施(摺動部はモリブデンショット)

これで滑らかでスムーズな作動 強度アップ 低抵抗なミッション群の下準備が完成

------------ Subsequently -----------


ノーマルクランクを軽量化と重心移動を兼ねたレーシングクランク加工を実施

無論 センター出しも含む


コネクティングロッドの軽量&強度アップの為 鏡面仕上げ

------------ Subsequently -----------

今回使用するピストンの構造上 高速化に備える加工を施した。

シリンダーに収まった状態ではピストンピン回りの空間が独立した空間になる。

ピストンが動いている状態では空気が膨張して抵抗になるのと 時と場合によって

その空間の空気が高温となりピン回りのピストンを溶かしてしまう事がある。

その対策として

ピストンサイドに内側に貫通する穴を開け クランクケース内と同調させる。

コレにより温度を下げると共に潤滑にも一役かってくれる。

勿論 ピストン裏の無駄肉を削り取り軽量化を実施。

ピストンピンに軽量タイプを組み合わせることによりトータル重量は大幅に軽くする事が出来る。

------------ and -----------

空冷エンジンは表面積が「命」

シリンダーの軽量を兼ねた面積アップ向上の為 このような加工を行う。



------------ next -----------

続いてヘッドにも同様の軽量を兼ねた面積アップ向上の加工を行う。



ヘッド内には“ディンプル加工”を行い冷却効果を促す。

またRFVCエンジン特有のプラグ口裏側に冷却エアラインが有り 排気口には残念ながら「バリ」があり

効果を妨げている、「バリ」取りを兼ねてポートを拡大加工も行う。



------------ next -----------

続いてクランク&バランサーの組み付け

MD30のバランサーにはバックラッシュを取るように2枚構成になっている。



挟んでクリアランスを詰めるようになっているがレーサーのME08はシングル構造だ。

この挟む事によって結構な回転抵抗になる、軽量化を兼ねてME08同様 外しておく。


クランクケース内を綺麗に清掃し 金属粉などを取り除く。



各ベアリングを挿入、クランクベアリングには高速ベアリングに入替え



排気量増大に伴いクランクケース内の圧力が高まる、そのままにしておくと高回転時にブリーザーから

オイルが吹き出す事になる。この対策としてブリーザー拡大加工を施しておく。

------------ Subsequently -----------

バランサー&クランクをセット

センター出しを行ったクランクは少しでも衝撃を与えてはならない、

折角のセンター出しも簡単に狂うからだ かなりシビアな作業が要求される。


バランサーのタイミング合わせを行う、

ノーマルの場合この合わせマークが合わない事がほとんどで修正し合わせると微振動も軽減出来る。


WPC加工を行ったミッション群をセット


クランクケースを合わせた後 クランクのセンターが出ているか確認。

クランクケースを合わせる時 各軸のセンターが出ていると“スコン”と無抵抗に奥まで入る。

ケース内の調整がうまくいっているかの“証”となる。


続いてクラッチ回りの組み付け

ハウジングにはGHA加工、GHA加工アルミクラッチ、FCCクラッチディスク、レートアップクラッチスプリング

改良改善クラッチレリーズキット

※FCCクラッチディスク:ディスク表面にオイルの層が出来るよう加工しておく。


クラッチセンターにはクラッチに多くのオイルが回るようポート加工を施す。

焼けや断続に一役かいます。


強化カムチェーンテンショナー、強化カムチェーン、強化シフターを組み付け

クラッチカバーを組み付ける。


フライホイルはすでに超軽量加工は施工済みだが

プラス 細かく無駄肉を旋盤加工で削ぎ落としておく。


今回 シリンダースタッドを「植え込み」式を復活製作した。


ベースパッキンの左右ケース合わせ目には航空機用液体ガスケットを塗付。

液体ガスケットとは名ばかりの接着剤のようなモノ、圧力に強く 良く伸びる。


ピストンを動かして本当の上死点を出しマーキングしておく。


ヘッド完成させる為 軽量&ポリッシュしたバルブをチタンリテーナー付強化バルブスプリングで押さえる。


「植え込み」式ヘッドスタッドボルトを仕込んでヘッドを組み付け。


カムベアリングL側には抵抗が少ないベアリングに変更。


強烈なアクセルオンオフによるカムスプロケットのよじれ防止に強化軽量型スプロケットに変更。

部分 お約束のようにボケてオイル漏れを起こす6mmロングスタッドボルトを強化ボルトに変更。


セルレスの“証” ご褒美的なME08オイルデリバリーパイプ

勿論 オリフィスボルトも組み込み


WPC&オイルポート加工を施したHOTCAM ST−Uをバルタイを調整し組み付け。

------------ Subsequently -----------

続いてロッカーアーム回りに移る。


ロッカーアームは勿論 サブロッカーも削り込み軽量化

縦運動モノは少しでも軽く

この少し少しが総合性能で発揮される。

シャフトは中空タイプを組み込み


ヘッドカバーを取り付け タペットクリアランスを調整

プラグはノーマル形状の♯10を選定 高圧縮に対応

オーバークーリングシュラウドをワンオフで製作


そして最後の仕上げに6mmスチールボルトをアルテックボルトに入替え。

6mmスチールボルトをあらかじめ普通に組んだのは締め付けなじみをつける為。




勿論 上映像↑には無いフライホイル側にも設置。

アルミはスチールの1/3の重量だ。

------------ Then -----------

いよいよエンジンをフレームに載せる作業に移る。

その前にフレーム側のオイルストレーナーのチェックをしておこう。



距離の割にはゴミが付着していたのでエアガンで清掃。


スィングアームシャフトがこの機種はムクなので 中空タイプに変更。

シャフトにはミリテックグリスを塗付

残念ながら国内での扱いが無いミリテックグリス。
コレを使い始めて使用目的に合わせて数種類のグリスを個々に使っていたが
ほとんどコレ1本で済む、飛び難く 良く伸びる カジらない まさしく万能だ。


黄色○は軽量ナット 赤色○は軽量ボルトに変更

エンジンが載った。


すでに“Air Charger System”は装備済みだが排気量増大に伴いハイパワーなブロアに変更、
30%増しのハイパワーモデルに入替える
(非売品)


本来ならばキャブとエアクリーナーの間にブロアを設置したいが構造上無理なので
吸入口に取り付ける。その圧力の妨げにならないよう抵抗が少ないK&Nフィルター
(オイルレス加工)に交換する。ノーマルビスカスも低抵抗だがやはりココはK&N。


ココは特別な“Air Charger System”に入替えた拘りでSPデカールを作成



こうやって車両は完成した、車両を押すだけでコレだけ軽くなるものだろうかというぐらい“軽い”。

セッティング&試乗を兼ねて試走したところ実にスムーズで滑らかな吹き上がり

開けると“ドン”と加速する。レーシングクランクが効いているのでモーターのようなスムーズさ。

少しづつ開けて行ってもモリモリのトルクが余裕を出してくれる。

F:13T R:38Tのレシオでこの加速・・・ すばらしい。

楽(ラク)して速く走るにうってつけのフィーリングに仕上がった。


エンジン総額¥656.100‐(税別)


もう一台 300のオーダーを受けているユーザーさんはMD30オフロード仕様だ。

随分久しぶりにそのユーザーさんからオーダーを受けた それはリア強化ハブだ。

永年XR系を見てきて リアホイルのベアリングにガタが出るとすれば決まってスプロケット側でした。

そこで思い当たった事にモトクロッサーのリアホイルのスプロケット側にはベアリングがダブルで入っている事。


 2015 CRF250R

尚且つ 左右ベアリング間のディスタンスカラーはジュラルミン材がノーマルで採用されている。

(CRから現在のCRFのコンペモデルは2000年からダブルベアリングが採用されている)


↑ MD30 7

XR系のリアホイルは左右1個づつのベアリングにスチールのディスタンスカラー。

同じオフロードでココまで違いをつけるのかと愕然としたものであった。

そこでXRに同じ構造を持たせる事が出来るのかを検証すると加工により出来る事が分かった。

XRハブにスプロケット側をダブルベアリング化に成功、

ディスタンスカラーをジュラ化 ノーマルディスタンスカラー(下):220gに対し ジュラ材(上):65g


こうしてXRハブもレーサーと同様な強度と軽量を兼ね備えたパーツ群に作り変えることが出来た。

またレーサーは両サイドのカラーもジュラ材で造られているがXRはスチールだ。

これも同様に作り変えてみた(今回は超超ジュラ材)。


はMD30純正 は製作品

スプロケット側 ノーマル:59g ⇒ 超超ジュラ:24g

ディスク側  ノーマル:61g ⇒ 超超ジュラ:21g

バネ下荷重1軽量すると車体3の割合で軽量化された事に相当する。

------------ and -----------

このハブには強化スポークにエクセルリムの組み合わせで組み込む事になっている。

※強化スポーク:ノーマルに比べ張力が高く軽量、緩み止めのニップルがセット

※エクセルリム:ノーマル中空リムより強度が強く はるかに軽量


こうして軽量且つ極度を備えたホイルセットが出来上がる。

このパートに目が行ったユーザーさんはなかなか良い“見る目・感性”を持っていると感心した。

------------ Subsequently -----------

↑上記 前後ホイルが組みあがった。

特徴や使うパーツのお披露目です。


エクセル ブラックリム + お勧めトレールタイヤ


コレが強化スポーク:線型が絞ってあるのが分かる、この構造がノビと張力 軽量を両立している。
(MD30ノーマルは等長タイプ) リム裏のニップルには緩み止めが配してある。
プラス リムバンドテープも効果的。

オフロード仕様ならではの装備


ビードストッパー


バルブブーツ
オフでは空気圧を低圧にするのでリムとタイヤがずれる可能性があるのでビードストッパーは必須で
チューブのバルブのナットは付けずドロなどが入らないようゴムブーツを配す。
またこのバルブの角度が曲がっているようではチューブのズレが生じている事を表すインジケータの役割もする。


スポークの緩みは共振により発生する事がある、クロス部分を押さえることによりその共振を抑える事が出来る。
ただし タイラップの爪が本体と同じ樹脂の場合 簡単に外れてしまうので金属爪の強力なバンドを使用。

このユーザーさんはすでにスーパーデルタプロリンク&ビッグローターを装備済


リアスプロケットには勿論耐ちの良いジュラ材製 取り付けナットには軽量タイプに入替え

純正スチールスプロケット:750g ⇒ アルミ(ジュラ材)スプロケット:217g


純正ナット(頭14mm):8g に対し 軽量ナット(頭12mm):6g × 6ヶ

何故 軽量化にココまで拘るかと言えばパワーユニットなどでハイチューンしていくと

上級クラスはどんぐりの背比べ状態になってくる 最期の最後で差が出るのはトータル重量になる。

俗に言う“パワーウェイトレシオ”がモノを言う、そして折角出たパワーを伝達途中でロスしたら

もったいない。機関ロスをいかに少なくしリアタイヤに伝えるかに掛かってくるのです。

総合的にまとまったマシンが優位に立てるのです。

------------ Wait a little time -----------

オーナーさんから第一報 インプレです。

今回も慣らしを兼ねて東京まで乗って帰られたので今までのフィーリングとの違いがよく分かったと思います。


田口さんがキック一発でかけたエンジン

エンジン音がなんか今までより図太くなった感じ「これが300の音かぁ」


試乗第一印象

全然別のバイクに乗ってるみたい

なにこれ、XR250改(270)の300ccボアアップというより、全然別のクラスのバイクじゃん

270にした時もストレスなく回ったような気がしたけど、それとは全く別物です。

1速2速と何のストレスもなく回ります 2速3速、回せばいくらででも回りそう。

エンジンが唸る、悲鳴を上げる、勘弁してくれというようなことはなく、もっとできるよ、

もっと回して大丈夫だよと言っているよう。

あまりにも滑らかに回るので、レシプロというよりロータリー、モーターのようです。

2速でメーター見ると60km、やばいこのまま回すとオーバーレブするんじゃないまだ慣らし中ですよ。

3速で80Km「やばい」、すかさず4速、5速、6速とシフトアップし、エンジン回転を下げます。

何のストレスなく滑らかにエンジンは回り、それでいてエンジン回りからの振動・騒音は皆無に近い。

排気音から、「お、ストレスなく回ってるな」と感じる次第。

高速道路と化したバイパスを慣らし走行していると後ろからあおってくる車が多いこと。

遅いオフ車とみてるのかもしれないけど、羊の皮をかぶったオオカミとは我が

ヴァイタル号のことだぞと心の中で言い聞かせながら端っこによって車に パスさせます。

しかし、270までの通勤特急とは全く別物の300Interceptorのキャッチフレーズ「楽に乗れる、一気に抜ける」

チューンとはこういうことを言うんですよね。

一般に思われている排気量アップによる扱い難さ、気難しさは一切なし。

というよりノーマルより格段と乗りやすく、ライダーの意のとおりに回るエン ジン、

止まるブレーキ、それに追従する足回り。

スパッ、スパッと決まるシフトチェンジは小気味よいし、回さなくても感じるパワー感は格別です。

これぞヴァイタルチューン。

500kmの道のりを走って、エンジンからの微振動がほとんどないため、また、

shock mitigation systemの効果もあるのだ ろうが、手のひらの痺れ感は皆無で、

体全体の疲労感もほとんどありません。

YZを迎撃するのがRVS400R inteceptorなら私の300はWRを迎撃するInterceptorと

いいますか撃墜(shoot down)しちゃいますね。(少し過激ですか ね)

今回は270から田口さんお任せ仕様の300にしていただきましたが、エンジンのみならず、

ブレーキ、サスペンションとねじの一本に至るまですべ てがヴァイタル仕様の1台。

レースに出ないからチューンの必要がないと思っている方には是非ヴァイタル仕様のXRに乗っていただき、

いかにヴァイタル仕様のXRは乗りやすく 素晴らしいかを体験していただきたいですね。

きっと目から鱗ですよ。もうWRにしようかなどと迷っている暇はないですよ。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

ホイル回り総額¥205.680‐(税別)


------------ Now finally -----------

さあ 今度は車両全域にわたるチューニングだ。


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