‘71年10月10日 富士グランチャンピオンシリーズX(TS)の勝利により通算49勝を向かえ50勝という区切りまで

あと1勝となった。勿論日産はファクトリー一丸となってこの1勝をモノにしようと万全の体制で望んだ、一方 打倒

スカイラインに燃えるマツダも必勝体勢で望んで来ている その展開、結末は壮絶なものとなった・・・


‘71 12月12日 

V S

第6回富士ツーリスト・トロフィー500マイル・レース

富士スピードウェイ6kmフルコースを舞台に800kmにわたって行われた。

ニッサン、マツダが正面から激突 -----こう騒がれた富士TT、常勝スカイライン勢は 50勝を期してPMCSから8台もの

大量エントリー。これに対するチーム マツダは木の実レーシングからカペラを2台、サバンナを1台。

そしてマツダ・スポーツカー・クラブからカペラを1台出場させた。またトヨタは不参加(セリカGT)。

 ニッサン、マツダの激突は本番の2日前からすでに始まっていた。12月10日午後2時30分 コースインした片山の

カペラに追いついた高橋国光のスカイラインHT・GT-Rはその後1時間に渡ってバトルし探り合いを繰り返していた。

カペラもスカイラインも実力は互角、2分1〜2秒のタイムでラップを重ねている。それはまさに本番の壮烈な戦いを

象徴する出来事であった。11日も両チームは最後の仕上げに全力を挙げる。

 明けて12日 参加70台のうち69台がル・マン式スタートの為にマシンをコースに出す、公式予選は無く参加受付順に

TS-V(1.601cc以上) TS-U(1.301〜1.600ccまで) TS-T(1.300ccまで) と並べられる。

ニッサンファクトリー:スカイラインHT・GT-R3台は例によってルーカスフューエルインジェクション付き、これに

bQ高橋国光/都平健二 bR北野元/長谷見昌弘 bT砂子義一/須田祐弘の各選手が乗り込む。

車検時のスカイラインの重量は948〜952kg、パワーは250PS前後。

一方 マツダ勢はbP4片山義美/従野孝司 bP2尾上誠/釜塚誠 bP寺田陽次郎/岡本安弘の6人がカペラに

bP5加茂進/増田建基がサバンナ。カペラの重量は835kg パワーは230PSだ。ニッサン、マツダ両車の

パワーウェイトレシオがどうレース展開にひびくか興味深い。

 またウェーバーキャブの5台のスカイラインにはbU久保田洋史/杉崎直司 bV塩谷俊介/大石秀夫 bW河原伸光/

田村三夫・・・といったメンバーが加わる。装着タイヤは耐久レースとはいえデビュー間もないBSのニュースリックが

大半を占めている。


スタート:定刻から10分遅れの11時10分 

富士スピードウェイは快晴、気温13.5度 湿度40% 気圧948mb 観衆18.500人。

競技長が振り下ろす国旗を合図に69人が一勢にマシンに向かって走った、熱戦の火蓋は切って落とされた。

2高橋HT・GT-R 3北野HT・GT-R(高橋車と間違え出遅れる) 12尾上カペラがすばらしいスタートで30度バンクへ 

14片山カペラ 5砂子HT・GT-Rがこれに続く。

1周目のヘアピン:トップは3北野HT・GT-R 5砂子HT・GT-R 14片山カペラ bP寺田カペラ 

15増田サバンナ・・・

 2高橋HT・GT-Rが来ない! ニッサン陣営は色めきたった。2高橋HT・GT-Rは横山コーナーでコースアウト・・・

ニッサンとしては一番調子が良かった最有力選手が1周もしないうちにリタイヤしたのだ 「えらいことになった」と

青地総監督がうめく。高橋国光は決勝当日まで絶好調で「今日はもう絶対にイタダク」と相棒トッペイちゃん(都平健二)

と話していたほどの意気込みだった。青地監督も高橋と北野を前に出せばマツダには充分勝てると考えていたようだ。

マツダ片山を先行させワークスGT-R3台でマーク つぶれるのを待つ と言う作戦だった。

しかしその一遍が崩れると うわさでは片山は2分切るところまで来ていると聞いているし・・・不安がよぎる。

ピットに帰ってきた高橋国光は「こんなレース面白くない、12尾上カペラにリアが浮き上がるほど当てられた。ガード

レールまで吹っ飛んだからフロントまでメチャメチャだ」と吐き捨てた。

事故状況はこうだ、1周目の“須走り落とし”では12尾上カペラがトップ わずかに遅れて2高橋はアウトから抜きに

かかり かぶさるように前へ、その直後カペラのフロントホイルが高橋の右リアボディに激しく接触。カペラは立直し

再走したがGT-Rはコースアウト 左フェンダーが金網フェンスに激突しボンネットが弾け飛んだ、前後輪に致命的な

ダメージを負ったGT-Rを高橋は降りるしかなかった。

これをきっかけにニッサンチームには更に不運が付きまとう事になる。

※5砂子車は助っ人的存在でニッサンはエントリー、砂子義一はこのレースが現役最後のレースだった。

マツダ関係者から安堵のため息がもれる。

ヘアピン立ち上がりで2位の5砂子HT・GT-Rを14片山カペラが抜いた、1周終わってスタンド前から30度バンクへ

差し掛かったところでスリップについていた14片山カペラが3北野HT・GT-Rを抜きトップに・・・

2周目ヘアピン:14片山カペラ 3北野HT・GT-R 5砂子HT・GT-R bP寺田カペラが一団となって通過 この

ポジションで5周目まで続いた ラップ2分2〜3秒 予想以上に速い展開だ。

5周目:最終コーナーで今度は5砂子HT・GT-Rがホンダ1300のスピンに巻き込まれ右前輪にひどいダメージを受けた。

タイヤはバーストし ストラットが折れ曲がっている、リアフェンダーも大きく陥没 この修理で12分を失い戦列を離れる。

6周目:これでbP寺田カペラが3位に上がる。

13周目:14片山カペラに高橋 砂子リタイヤを伝える、ニッサンファクトリーに残るは3北野だけだ 片山は北野を

振り切りに拍車を掛ける。15増田サバンナは5位浮上中。15周目 片山と北野の差5秒、17周目 5.5秒 この差は

周回ごとに広がってゆく。25周目3北野HT・GT-Rはピットイン クラッチトラブルだ、これで3位のbU久保田を

除けば 1位14片山カペラ 2位bP寺田カペラ 4位15増田サバンナ とロータリーが上位の重要部分を握っている。

3北野HT・GT-Rは長谷見に交代し2分秒前後をロスしピットアウト、4周してまたピットイン クラッチ交換 再スタートまで

30分を要した。ニッサンファクトリーは予想もし得なかったトラブルの連続に慌てている。長谷見は6位まで順位を落とし

トップ14片山カペラに2ラップされていた。

42周目当たりまでゆうゆうとトップを快走。それから5周 またもや長谷見が

ピットイン、今度はギアが4速に入ったまま動かなくなってしまった。再びミッション交換 16分32秒を費やして戦列復帰。

もはや首位奪還の望みは無くなっていた。この間 須田に引き継がれた5HT・GT-Rも燃料トラブルで1周ごとにピット

インを繰り返していた、ホンダと接触した時に燃料系がいかれたのだろうか。ニッサンファクトリーはすでに全滅状態。

63周目:マツダ陣営に異変が起こった、2位bP寺田に変わった岡本カペラがコースにオイルをバラマキオーバーヒートで

リタイアしたのだ、原因はオイルキャップの緩み。

80周目:

トップ14片山カペラに遅れること3周で15加茂サバンナが2位、これにピッタリくっついて6久保田HT・GT-Rが3位。

しかしここで大逆転が起こった、今度は1位の14従野(片山)カペラがピットへ。

そのまま二度とエンジンは掛からずリタイアとなった、オイルポンプ破損によるメインベアリングの焼付きが原因だ。

暗雲が垂れ込めたようにマツダ陣営は不安の色を隠せない、まさに“晴天のヘキレキ”である。現在15加茂サバンナが

1位に上がり2位は6久保田HT・GT-R プライベートGT-Rが徐々に浮上してきた。

そして89周目1位の15加茂サバンナがピットへ、100rでスピンした時にタイロッドに石が当たり曲がってしまった。

それから1分後6久保田HT・GT-Rもピットイン、GT-Rは右フロントホイルがぐら付いて

まっすぐ走れない この修理に6分ロス。15増田(加茂)サバンナはすでにピットアウト(4分ロス) これを懸命に追う。

94周目:15増田サバンナ予定外のピットイン、ついに6久保田HT・GT-Rがトップに立った。3北野HT・GT-Rは

40周近い遅れをものともせず必死の挽回を図っていた、S字から100Rにかけて激しい四輪ドリフトの連続で追走。

3北野車が見える度に観衆からドッと歓声が上がる。

105周目:1位6久保田HT・GT-Rと2位15増田サバンナとの差は約2周半と開く、マツダ陣営は2位死守へと方針

変更。ようやくニッサン陣営に余裕が出てきた、ワークスドライバーのひとりが「オレたちゃもう全員で頭下げるよ」

4ドアGT-Rの登場以来 50勝目の記録が達成出来るのだ。これがワークスマシンなら30勝目になるところだった。

だが喜びがついえる時が来た。残りわずか4周という時点で6杉崎HT・GT-Rはみぎフロントホイルを

地面に擦りつけながらピットに入ってきたのだ。

メカ達はただちにホイルを交換に掛かったがストラットアームが食い込んで外れない。

コクピットに納まったまま杉崎はいったんピットインした15増田サバンナが再スタートしていくのをじっと見つめて

多くを語らなかった。「S字のショートカットを過ぎたあたりで突然ガクンときた」のだと言う。

「前にホイルをやられたときから少しづつキズが深くなっていったのだろう」(青地談)

チャッカーは15増田サバンナ、6杉崎HT・GT-Rはその後ピットを離れ 2位を獲得する為の最後の1周であった。

こうしてマツダチームは国内レースに初の それもデビュー間もないサバンナによって優勝を飾ったのである。

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=ラスト4周の真実=久保田談

このレースはぼくののクルマで仲間の杉崎君と出ました。日産ワークスは全滅しましたが ボクらに勝利の女神が

微笑みだしました。2位のサバンナを3周引き離していて ボクが最後のピットインをしました。杉崎君にチェッカーを

受けさせようとしたら青地さんや木村さんは「そのまま行け」と言ったのですが ボクが強引にクルマから降りてしまった

のです。そしたら最終コーナーで杉崎君が4回転の大スピン、ストラットの付け根が折れました。杉崎君はスピンすると

ブレーキを踏むんです。ボクは黒沢さんに教えてもらったとおりアクセルを踏んでタイヤの段減りを無くすんです。

すぐにピットインのサインを出しました。でも杉崎君は興奮しているのでサインを確認できずにそのまま走ってしまった

のです。次の周に入ると思っていたらフラットスポットが原因でタイヤがバースト。それでダメージがストラットまで

行ってしまいました。それを修理している間にサバンナが行ってしまった。もう2位でチェッカーを受ける為だけに杉崎君は

のろのろ走りました。この時はすごく怒られましたね。青地さんや木村さんだけでなくて 桜井さんにもこっぴどく怒られ

ました。3周リードしてるのにロータリー勢と競り合う事は無いのですがそこが杉崎君らしいところです。ゆっくり走る事が

出来ないのです。勝つ事がプロだと言うならボクらはアマチュアだったかもしれません。友達だからチェッカーを受けさせ

たかったんです」


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