早くからニッサンvsマツダの対決と騒がれていたこのレース、4月7日の公式エントリー発表で まさにそれが
現実となって現れた。
総勢30台中スカイラインGT-Rがハードトップ、セダン合わせて15台、ロータリー勢がこれまた15台で相対する事に
なったのだ。
と言ってもこのレースはTS-b-Tクラスが1.601cc以上2.000ccまで、TS-b-Uクラスが2.001cc以上で分けられており
スカイラインが前者、ロータリー・サバンナは後者に属する。実際はスカイラインがクラス下と言う事になる訳だ。
しかし ツーリングカーの王者スカイラインとしては 573cc×2ローター・2.292cc、300ccの差があるマツダ車とはいえ
絶対負けられない一戦だったのである、またその執念に燃えていた。
ここでちょっと4月初めからの富士での両雄のトレーニングスケジュールを紹介してみよう。
4月6日:ニッサン、〃7日:ニッサンレーシングスクール、〃16日:マツダ、 〃17日:マツダ、〃19日:ニッサン、
〃20日:ニッサン、〃26日:ニッサン、〃28日:ニッサンレーシングスクール、〃日:マツダ。
これを見ても分かるとおり ニッサンが合計6日間に渡ってテストランを続けたのに対し マツダはわずか3日、
すさまじいばかりのニッサンのトレーニングぶりだった。マシン面でも同様の事が言えた。
グランプリ仕様のワークスGT-Rはエンジン部に手を加え 外観的にはオーバーフェンダーの形状を変えてテストに次ぐテストを繰り返した。まずエンジンではピストン頭部を変えて圧縮比を上げ 同時に燃焼室形状も変更したと言う。これでパワーは230PS+α。同時に全体的な軽量化を図り オーバーフェンダーで空気の流れをよりスムーズになるように工夫した、ウェイトは930kg台。これまでよりパワーウェイトレシオも上がりコーナーからの立ち上がりは良くなった、タイムも1分32秒台を記録している。これを操るドライバーは トップクラス高橋国光、北野元、長谷見昌弘のニッサンワークス3人。更に久保田洋史、杉崎直司、河原伸光、正谷栄邦の4人がファクトリーGT-Rと同じルーカスフューエルインジェクションを装備して登場してきた。
一方 マツダも“打倒GT-R”を旗印にサバンナとカペラの混血マシン“サバンナRX−3”を持ち込んで来た。すなわちサバンナのボディにカペラ用の573×2ローターエンジンを積んだマシンである。すでに4月2日の鈴鹿500キロに従野孝司、加茂進のドライブで登場、その片鱗を披露したが今グランプリの秘密兵器であることは自明の理であった。この時はボディの軽量化などにほとんど手を加えず エンジンとのマッチングに重点が置かれたらしくウェイトも公認重量820kgから790kg前後に。それでも片山義美のカペラを上回る2分23秒0をマークして予選5位となった。しかし 富士に持ち込まれた時にはボンネット、トランクリッド、ドアなどはアルミ板に変更され 760kg前後にまとまっていた。エンジンも昨年より10%程度アップして220〜230PSに上がっていると言う。富士でのトレーニングではこれで1分32秒台。GT-Rとまったくの互角のタイムを叩く出した。しかし関係者の話では“70%の出来”と言う。このRX−3に乗るのが 片山義美、従野孝司、寺田陽次郎の3人、それに武智利憲、岡本安弘らがカペラ、増田建基が491cc×2ローターエンジンのサバンナ。このうち岡本を除く5人は今回新しく東洋工業のモータースポーツ行政を司る最高機関として設立されたMMS(マツダ・モーター・スポーツ)からのエントリーである。その他では田中俊夫、山本高志らがカペラで参加して来た。
消えた謎の“抗議書”
ところでニッサン、マツダの対決は更に公式車検時へとエスカレートしていった。5月2日午後1時30分頃 車検場の“測定秤”の上に乗った27岡本安弘を先頭にワークス系マツダ車はほとんどがスチール製のホイルを履いていて車検に臨んでいた。それにもかかわらずこのマツダ車のうち何台かが公認重量から10%減じたものより20数kgしかオーバーしていなかった。つまりカペラの10%引き公認重量801kgに対して27岡本車が823kg、28田中車が831kgと言った具合。当然マグネシウムホイルを装着すると4本で15〜20kgは軽くなってしまう、とすると10%減を割る可能性も有るのでは・・・
集まっていたニッサン関係にこの話がいち早くもたらされた。といっても公認マイナス10%の規定重量を割っていたわけでもなく その場はそのまま収まった。しかし いよいよタイムアタックの蓋を開けたところ マツダ車はほとんどがマグネシウムホイルを履いていたのだ、タイムもかなり良い。結局 スターティンググリッドで分かるとおり3高橋国光が1分32秒22で2位に食い込んだ以外、上位5台はマツダ車のオンパレードとなった。この結果が発表されたのが午後5時10分。ところがその直後 PMCS側から「マツダの車両重量がおかしい」という抗議書が大会委員会まで提出された。車検時のマツダ系の“軽量ウェイト”とからんでいた事は確かである。さっそく景山審査委員長を中心に審議が進められた事は言うまでも無い。同時にマツダ4台の再車検も指示されたと言われる。結果は「違反車なし」。ある技術委員は「10%減の重量をあと3kgで割るものもあったが・・・」と漏らしていた、それでも問題は無かったと言う事になる。これは関係者の口から聞き出したものだが審査委員長はこの件に関して「抗議は抗議書を提出した者が取り下げたので無かったものとして判断する』と言う事でケリ。それにしては正式の予選結果が発表されたのが予選終了後4時間以上も経過した午後8時15分。いったん午後5時10分に発表されたものが何故これほど遅れたのか、その答えは遂に出されずじまいだった。
TS-aレースのスタート直後の事故の為出走を危ぶまれた高橋国光が右足を引きずりながら3HT・GT-Rのコクピットに
収まった。そこへ一方の雄 片山義美がやってきて「大丈夫かい」と声をかける。
「うん だが今度はあんな事は無いだろうね」と国光。「大丈夫だよ よろしくね」両雄笑いながら分かれた。
スタート前のなごやかな一瞬だった。だがレースはファクトリーの対決のすさまじさをまざまざと見せつけた。
決勝の火蓋を切ったのは午後1時25分、ロータリー勢がいいスタートを切る。
3高橋 5北野 6長谷見らのHT・GT-Rはやや出遅れた。
やがて300Rからヘアピンへと姿を現す、トップは24片山の黄色いサバンナRX−3 続いて26寺田RX−3 23武智カペラ 25従野RX−3 3高橋HT・GT-R 2増田サバンナ 6長谷見HT・GT-R 27岡本カペラ 5北野HT・GT-Rといった順、はやくもロータリー勢上位を独占。3高橋HT・GT-Rがわずかに4位 5北野6長谷見HT・GT-Rが6,7位を保つが100Rへ消える時には3高橋も2増田サバンナに抜かれて5位へと下がっていた。昨年までのGT-R優勢のレースとはうって変わって立場はまったく逆、GT-Rが必死に食い下がっているといった感じだ。
レース序盤はまずこの態勢で進む、直線では明らかにロータリーの速さが目立つ、しかし5番手に付いた国光も巧者。その劣勢を挽回してヘアピンまでには2増田サバンナをかわし次第に上位4台のロータリー勢に迫る。
そして6周目のコントロールライン直前では25従野RX−3をとらえ4位へ。この頃からレースは次第に険悪な様相を見せてきた。3高橋HT・GT-Rと25従野RX−3、26寺田RX−3の対決が本格化したのだ。
首位を走る24片山RX−3 2位23武智カペラが1分31秒台にペースを上げて3高橋HT・GT-Rの追撃を振り切りにかかるのと同時に25従野RX−3と26寺田RX−3が3高橋HT・GT-Rを抑えにかかったのである。「マツダがブロック作戦に出た」という声も聞かれた、確かにその感もあった。
10周目のヘアピン立ち上がりで3高橋HT・GT-Rと26寺田RX−3が激しく接触、25従野RX−3がインをさして寺田と2台で高橋を“ハサミ打ち”する場面もあった、その直後から高橋はやや後退し始める。
12周目 ヘアピンで追突事故が発生した、これもGT-Rとロータリー。
その間に再び3台高橋、従野、寺田の攻防が再開される。
そして13周目には3高橋HT・GT-Rが3位へつくがヘアピンでもたつく間にアウトから2台に抜き去られて再び5位。が このうち26寺田RX−3が14周目の1コーナーで31赤池カペラのスピンをかわしきれずに接触、フロントを痛めてピットへ張り付く事となる。しかし戦いはこれで終わったわけではない。高橋、従野の前にキズも癒えた寺田が飛び出したのが15周目、従野を先行させる手に出たのである。
この時もヘアピン立ち上がりでブロックが行われた。寺田が高橋をはじく間に従野がインから2台をかわして3位に浮上。その後も寺田が執拗に高橋を抑えにまわる。
この後ろでは逆の事が行われていた、5北野と6長谷見HT・GT-Rが2増田サバンナをあいだにはさみこれをブロック作戦を続けたのである。
結局 増田はミッションを傷めオーバーレブさせたのが原因でファンベルトを外し100R付近でストップ リタイア。あと5北野と6長谷見HT・GT-Rのランデブー走行に終始。
更に下位でも10久保田HT・GT-Rと27岡本カペラが相変わらずの攻防戦を続けていた。
結局 レースはロータリーとGT-Rの激突が最後まで続くが24片山RX−3 23武智カペラは最初からまったく他車を寄せ付けず鮮やかな1・2フィニッシュ。3位も25従野RX−3が3高橋HT・GT-Rに約2秒の差を付けてゴール。ロータリー勢がこれまでのGT-Rとの立場を完全に入替える圧倒的勝利を飾ったのである。