かつてのツーリングカーレースと言えばスカイラインGT-Rの独走と言うのが相場だった。ところが昨年末から今年にかけ
特に5月の日本GPを境にその様相は一変しつつある。つまりロータリー車の台頭目覚しく 今やツーリングカーの王者を
完全に我が物にしようとしているのだ。GT-Rも必死の攻防戦を展開するが土壇場に立たされているのは確か。
その最後のカケがフジ・グラン スーパーツーリングチャンピオンレースだったとも言える。
そんな思惑も絡んでかニッサンがこのレースに掛ける意気込みは凄まじかった。熟成され尽くした感のあるHT・GT-Rを
富士に持ち込みあらゆるトライが繰り返されたのだ。DOHC:2リッターのS20パワーもその母体となるR380用GR-8に
まさり230〜240PSを搾り出すと言われながらグランプリ以降燃焼関係の再チェックを行ってより万全の体制を敷いた。
が テスト結果は意外にタイムは伸びなかった。その原因はやはり絶対的重量だった。公認重量が1.020kg、TS改造で
10%の軽減が許されるといってもリミット918kg。これでは820kgの公認重量(TS改造で738kgまで軽減可)をもつ
サバンナRX-3にはとても立ち向かう事は難しくなってきた。。それに573cc×2ローターエンジンもS20に匹敵する
220PS以上を搾り出すとあってはいよいよ気を許す事が出来ない。
話題はちょっとそれるが富士のテストには2.4リッターのエンジンを積んだGT-Rと 軽量ボディGT-R+S20エンジンの
2台を持ち込んで比較テストが行われたらしい。結果は2.4リッター車より 軽量S20エンジン車の方が速かった。
勿論 現在のワークス仕様車(約935kg前後まで軽減されている)より速い事は言うまでも無い。このことからも
重量の問題がいかに大きいかということが分かろうというものだ。
それはともかくこうしたニッサンの必死の攻防戦に対してマツダは更に磨きを掛けたRX-3を繰り出してきた。と言っても
片山義美主宰するところの“木の実レーシング”からのエントリーだが8月20日の鈴鹿に登場した“サス改良サバンナ”
をここにも運び込んだのだ。
つまりパイプ/ピロボールを使って大手術を施し大幅に足回りが良くなったというモデルである。
勿論 鈴鹿仕様とまったく同じと言う訳ではない。バンク対策としてリーフスプリングを1枚追加して2枚とし
タイヤ径の関係(BSのスリック 9.3/21.0−13を装着)でフロントが1cmほど下がっている。これで「S字がぴたりと
決まるようになった」と言う。2日午後の予選ではこのマシンに気鋭・28従野孝司が乗り2分01秒13を叩き出して
ポールポジション。
これに15北野元と16都平健二のスカイラインHT・GT-Rがそれぞれ2分01秒79、2分02秒42で続く。
この後ろがbクラス(1.301〜1.600cc)の8久木留博之、9蟹江光正の初陣スプリンタートレノだ。
タイムは2分04秒31、2分04秒40。
このトレノは初陣と言っても前回の同じレースで優勝したレビンとほとんど同じ。
トヨタ系のきわだった特徴になっているパイプ製アームとピロボールを駆使した足回りをもちエンジンもDOHC・1.588ccに
ソレックス50PHHを組み合わせたもので170〜180PSを出している。ただレビンはフロントのノーズ形状が幾分違い
それが微妙な影響を与えているようだ。
久木留、蟹江とも「操縦性はレビンとほとんど変わらないが直線での伸びがやや落ちる。フロント形状の関係ではない
ですか」と漏らしていた。「しかしGT-R、サバンナの2リッタークラスにひとあわ吹かせてやる」と強気の弁。
こうしたそれぞれの思いをのせてレースのスタートを切ったのが3日午後12時10分。
まず 28従野RX-3が好調な出足を見せる、それに15北野HT・GT-R、8久木留、9蟹江のトレノが続く。
16都平HT・GT-Rはどうしたことか出遅れ中団に はさまれてしまう。
1周目のヘアピンは
15北野HT・GT-R、28従野RX-3、25岡本RX-3、8久木留トレノ、32宮口RX-3、24寺田カペラ----。
このうち15北野HT・GT-R、28従野RX-3のトップ2車は早くも3位以下に10m近く差を付け一騎打ちの構え。
すでにS字入り口で最初のぶつかり合いもあった。
15北野HT・GT-Rの左リアと従野RX-3の右フェンダーが激しく接触したのだ。
しかし 2車は何事も無かったようにヘアピンへ姿を現したのである。
スタートで出遅れた16都平HT・GT-Rはこの後ろ7番手まで上がってきた。
そしてスタンド前に帰ってきた時には8久木留についで5位、しかし3周目のS字でスピン、また後退を余儀なくされる。
15北野と28従野 HT・GT-Rとサバンナ1対1の対決は2周目以降更に激しさを増す。
最終コーナーを北野の後ろにピッタリと付いてきた従野がストレートコントロールタワー手前でスリップストリームを
外れ右へ出る。
アクセルをいっぱい踏みつける。そして北野をかわしてトップでバンクへ入る、
しかし 北野も負けじと従野を追う、横山コーナーで北野がインを差す、
ヘアピンではふたたびトップだ。
---- こういったシーンが10周目ごろまで続く。5万3千人の観衆はこの攻防戦に沸きに沸いた。
レース中盤10周目 16都平HT・GT-Rがピットへ入ってきた。
ピットマンがマシンに飛びつきリアトランクの固定作業を行う。
この時点での順位は1位28従野RX-3 2位15北野HT・GT-R。
これからだいぶ離れて25岡本RX-3 8久木留トレノが3、4位争い。
更に遅れて9蟹江トレノ、21久保田HT・GT-Rが5、6位でしのぎをけずる。
久木留と蟹江はbクラスの1、2位というわけだが1.6リッターで2リッター勢をよく食い止めている。
それから2周 ピットアウトした16都平HT・GT-Rが28従野RX-3の前に出る、この従野の後ろに16北野。
28従野RX-3は遂にワークスGT-R2台に挟み撃ちのようなカタチになった。
そして16都平HT・GT-Rに走路を塞がれた従野はトップを明け渡す事になる。
この都平の走りに“白・黒旗”が2度にわたり提示される。つまり「スポーツマンシップに反する行為」が有ったというわけだ。
これを続けると最終的には“黒旗”によりピット停止が命じられる。
結局 16都平HT・GT-Rはこの旗から後退、ついで15北野HT・GT-Rも28従野RX-3に抜き返されてしまう。
16周目のヘアピンに真っ赤なサバンナがGT-R2台を従えて入ってきたのだ。
その直後から28従野RX-3が急にピッチを上げ 18周目には2位15北野HT・GT-Rとの差を5.7秒と開けていた。
この従野の闘志にスタンドから喝采が飛ぶ、もう勝負は決まったようなもの。
この間 ヘアピン入り口で転倒事故が起こった。bクラスのブルーバードがバランスをくずしてイン側の土手に乗り上げ
1回転して逆さまにコースへ叩きつけられたのである、救急車が即座に飛び出す。しかしドライバーは無事なようだ。
事故車はそのまま放置されているが レースはいよいよ2周を残すだけとなった。
28従野RX-3はますます快調である。優勝間違いなし---- 誰もがそう信じて疑わなかった。
ところがこの周のヘアピンにトップで入ってきたのは15北野HT・GT-R。
あちこちで「あれ!?」という声が上がる。15北野HT・GT-Rが通過して5秒 10秒 15秒、まだ現れない。
17秒後ようやく従野RX-3がヘアピンに姿を見せた、何かトラブルが発生したのか生彩が無い。
そのままピットロードへすべり込んでしまう。
あと1周だと言うのに・・・ レースは分からない。ピットに入ってきた従野は「ガスが来ない」と叫ぶ、ピットマンが
すぐタンクを調べるが「ガスはまだ有る」従野はこれを聞いてすぐにコースに戻る、原因はガスの片寄りによるものだ。
それと吸出しパイプが曲がってしまいタンク内のラバーを噛んだ形となりガスの吸い上げを細くしてしまったのである。
このためS字を過ぎた当たりで急にガスが来なくなったり そのまま100Rのアウト側グリーンへ。
その反動でガスが揺れたのかエンジンがふたたび吹ける、慌てて戦列に復帰する。従野自身はガスが来なくなったと
思ったらしい、その為ピットへ入ってきたと言う訳だ。
練習中でも2度ほど同じような現象が起こり対策したばかりだと言うのに・・・ もっともこのガスタンクは標準サイズの
ものより薄型で高さが約半分の横広型というのも大きく影響したようだ。
かくしてレースは終わった、優勝15北野HT・GT-R 2位25岡本RX-3 3位21久保田HT・GT-Rという顔ぶれだ、
この後ろが28従野RX-3。そして8蟹江 9久木留トレノが入る。
彼らはbクラス1、2位 蟹江はこれでシリーズ3連勝を飾り Tbチャンピオンをほぼ確実にした。
レースに“〜たら・・ 〜れば・・”は無い RX-3のトラブルはレース前に分かっていた事、それの対策が出来ていなかった
マツダ側の敗因だ。しかしニッサンワークスにとって 勝負に負けてレースに勝った と言う両手ばなしでは喜べない
複雑な勝利となった。
北野元談
ああいうレースも面白いんじゃないかな。ボクとしても一生懸命走った。それにバンクや最終コーナーなどの危険な
ところではやらなかったが危なくないところでは精一杯競り合った。しかし従野はいい根性をしている、これから
大いに育つだろう。それにしてもRX-3の足回りが良くなったのは後ろを走っていて良く分かった。
------レース終了後 北野はこう語った、スカイラインの北野元 サバンナRX-3の従野 どちらも負けられない1戦
だったに違いない。