=GTR戦闘力向上の軌跡=


1968 10月 PGC10が出て すぐに日産ワークスPGC10Rに着手

ひとまずノーマルでテストを行ったところ様々な問題点が出てきた。

その中でエキゾーストマニホールドがあった。

・トルクの“谷”をカバーするエキゾースト・パイプの設定


ノーマルエキゾーストマニホールド(4.500〜5.500rpmで谷が出る)


当時青地氏によるレポート

エンジンルーム内のスペースの関係で不等長になっていた集合管結合部までの

マニホールドを等長化する事。(エアファンネル全長100mm:ウェーバー45)

7.000rpm ⇒ 8.200rpmに上昇

排気管集合部までの長さを750mmから730mmに変更(生産車:700mm)

試作で作られたのは3種類

エアファンネル全長:125mm

世間(メディア・雑誌)ではGTRのノーマルエキパイは“等長”と紹介されているが

↑上記の通り等長エキパイではなかった。(今で言う等長タイプ)


メーカー公表のS20型エンジン性能曲線

図のとおり4.500〜5.600rpmにトルクの“谷”がある。

※Z432のグラフも同様の記載(エキパイ形状が異なるにも関わらず)

PGC10R開発初期(キャブ仕様の時):当面は出力に直接影響する吸排気系を中心にチューニングすることになった。特にGTRのエンジンルームの広さはS20型エンジンを量産ラインで搭載するにはギリギリで 排気管の形状を性能優先でレイアウトするわけにいかなかった。苦労して量産された独立型の等長排気管形状を更に排気干渉がないように またうまく排気脈動を利用できるように変更し 各気筒から集合部までのそれぞれの長さを揃えて出力の向上を図った。また 同じように吸気系ではエアホーンの長さを変更して数種類を試作し 排気管との組み合わせにより最良なものをテストで選び 性能が大幅に向上するようにした。<青地康雄著>

※マフラー長(エキパイからマフラーエンドまでの長さ)もエンジン特性が変わる。



初期はロングマフラー:直型

日産自動車スポーツ相談室

1969 日本GPの頃のPGC10Rはサイド出しに変更されている。(曲型:ショート)


1970 10月頃 モデルはKPGC10Rになり 吸気系はルーカスフューエルインジェクション

拡大ポートヘッドに変更され エキゾーストパイプ集合長は700mmに変更

コンプレッションレシオは11.3


ワークスエキゾーストマニホールド


伝統の“モナカ型”

日産自動車スポーツ相談室のカタログにはPGC10・KPGC10共にエキゾーストマニホールドの記載が無い。

レーシングマニュアルにも同様記載ナシ

1970 9月発行のZ432のカタログにのみ記載アリ


こうやってノーマルでも出ている“トルクの谷”を解消する為の日産自動車スポーツ相談室の

エキゾーストマニホールドがある。

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渡邉号

ワークスGTRのエキゾーストマニホールドが写ったものはほとんど無いが


Z432Rに写ったものがあった。


日産自動車スポーツ相談室のマフラーでは無さそうだが サイド出しはこんな感じ。



レプリカ

スカイラインの排気系はデュアル構造(途中で干渉させたものはΧ 完全独立型)を堅持して欲しい、それには理由があるからだ。

稀にシングルマフラーを装着しているモノを見るが 分かってないなぁ と思ってしまう。

スカイラインの血統は守って欲しい。

------------ Talk on behalf -----------


話は変わるがAuto artのレーシング仕様のマフラーもメーカーと曲げが異なる。

当時のニッサン特殊車両部第2特殊車両課 では コストが掛かろうが少しでも性能に寄与する事であれば

手間を惜しまなかった、ドアやボンネット トランクの段差にも空気抵抗にならないよう 気を使う繊細さだった。

上映像↑のマフラーの曲げにもソレが出ている。



上映像↑はKPGC10Rの下回り画像 二段曲げがホンモノ。

------------ Take a step further -----------

最初にPGC10Rに製作されたエキゾーストマニホールドの等長集合部750mmというのは

S54CRやR380のGR8エンジンのノウハウから割り出されたものだと思う。

これも750から730mmに変更されたのも 当初PGC10Rはテールの後方までの直型、

R380はリアエンジンなので全エキゾースト長はPGC10Rよりも短い。

R380のマフラー役割としてはエキゾーストパイプ部分まで長く取り高速の伸びを狙い、

集合部以降を短く取りレスポンスを上げる役割を持たせた。

GTRはノーマルエキゾーストは700mmに対し ワークスGTRは はじめから750mmに設定したのは

高速を延ばしたかったと思われる。ただレギュレーションのせいかは定かで無いが

エキパイ以降マフラー長が長いので回転を引っ張るのに時間を要する。

その解消の為 750 ⇒ 730mmに縮めたのではないか。

そしてサイド出しに変更することで エキパイ長とマフラー長のレイアウトはR380に近くなる。

R380 ピークパワー回転数:8.500rpm

PGC10R ピークパワー回転数:8.000rpm

KPGC10R ピークパワー回転数:8.500rpm
(許容回転数は10.000rpm)

そして最終 よりレスポンスを上げる為に集合管結合部を700mmまで縮めた。

GTRを巨額の費用と時間を掛け 研究しつくした日産ワークスが 確実にパワーを引き出せるパーツ群を創った。

それらにはそれぞれの役割があり その役割を最大限引き出せるよう工夫がされている。

それらを見抜く技量を持たなければならない。

=青地康雄 回顧録=

KPGC10Rワークスレース活動も終わりを迎えようとした時 L24型エンジンとの

比較も行われた。そんな中 試作で2.2リッターS20型エンジンも製作され

台上試験結果は無調整で軽く270馬力が得られ トルクカーブもフラットとなり

非常に期待が持てるエンジンに仕上がった。

シリンダースリーブにはクロームモリブデン鋼を薄型に削り出し 使用。

ピストンも新製

この時のヘッドは2LのS20型エンジンのものを乗せただけで 2.2L用に

吸排気・燃焼室形状・レシオを詰めていけば 果たしてどんなエンジンが

出来たのか 実現しなかったがワクワクする話であった。

幻のS22型エンジン

その他の部位 ワークス仕様

=番外編 1970=






‘69 日本グランプリ出場当時 GRX-3

------------ Related to the previous -----------

R381 MkU

 MkTのシボレーV8エンジンからGRX 5リッターV12エンジン搭載


後のGRX 6リッター用エキゾーストマニホールドと形状が異なる。

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エキゾーストマニホールドは「等長」の構成が望ましいのはクルマ好きなら誰でも知っているだろう。

何故「等長」が良いのかはココであらためて言うまでも無いが・・・

S20型エンジン系で ところ狭しと うねりたくったタコ足を見る。



上映像↑のような外品エキゾーストは 集合部までの距離を長く取ろうとしているので

スペース的にはそうなってしまうのは仕方が無い。

何故そうするのか 見た目がいいから まさか・・・

ワークス仕様とは真逆の造り

そのデメリットを打ち消すモノを組んでいるのだろうか。

「もう古いので真剣に走る事は無い 普通に走れば良い」というのであれば それで良いだろう。

ただしソレは「死に体」のGTRだ。

各ショップや有名店のオリジナルエキパイが出ていると思うが パワーチェックして

コレだけ出ると示しているだろう。

エキパイに限って言えば ワークスのレイアウトはレスポンスを重視したものだと分かったと思う。

そのレスポンスの良さはパワーチェックのグラフでは分からない。

回転上昇の加速タイムが出るものは一般的には無いのだ。

上映像↑のようなタコ足はレスポンスは鈍く(特に低速) 回転が上がればパワーの数値が出る造りだ。

よ〜いドンで置いて行かれるパターンなのだ。

当時のGTRのライバルはロータリー 軽量&ハイパワーが特徴のクルマに対峙するには

特に立ち上がりをいかに速くするか 離されないかが課題で開発が進められた。

その手法がワークスのやり方なのだ。

各パーツを見て その役割を把握し 総合的に組み上げないと意味が無い。

------------ Aside -----------

1968年にPGC10が発売され 同型エンジンのZ432は1969年10月


GTR純正エキゾーストマニホールド


Z432純正エキゾーストマニホールド

GTRの構造とまったく集合部が異なる。

PGC10のテストから得られたデータを基に改良されていると見られる。

同じS20型エンジンでもZ432はアクセルレスポンスはかなり良さそうだ。

KPGC110にも同型が採用されている。

私がGTRを持っていれば迷わずZ432のエキゾーストマニホールドを付けているだろう。


=END=