シャシチューニングの中でも最も難しいものの一つがサスペンションシステムである。事実サスペンションの作用は
あまりにも不確定な要素によって構成されている問題が多く 机上で一応 工学的 理論的にすべてを解明したとしても
実際の応用に当たっては多くの矛盾が生じて 実験データを基にもう一度分析しなければならない事が多いものである。
こうした理論工学的要素を含むサスペンションでありながら これをレーシングカー向きにチューニングした場合 その
程度があまりにも高度になりすぎるとドライブテクニックの方が追いつかず 俗に言う乗りこなせない車になってしまう。
また逆に不完全なサスペンションチューニングの車でもドライブテクニックによってある程度その性能の低さをカバー
することも出来る。要するにサスペンションチューニングとドライブテクニックは常に一体となって始めて優秀な結果を
得るものであるから ドライバーは自分の好むサスペンションになるようメカニックにアドバイスを行い またメカニック
はアドバイスされた事項を十分研究し 必要に応じていろいろなチューニング手段を講じなければならない。
しかし チューニングを行うといってもサスペンションにあっては特に工学的 物理学的な要素を念頭に入れ 何故
こうするのか またこうでなければならないのか研究しながら実行する事が大切である。実際に日本のレース場において
出場車を見るとき いろいろの手段が講じてあるものの本当のサスペンションの理想に合致したチューニングをしている
のは数少ないようである。では理想的なサスペンションチューニングとは何であろうか。またストックカーとの相違は
何処にあるのだろうか。ストックカーのサスペンションに要求される第一条件は快適性であるのに対し レース出場車
においてはロード・ホールディングの優秀性である。それではロード・ホールディングとはいったい何であろうか。
一口に言えば走行中にいかにしてタイヤの接地している時間的割合を長くするかにある。すなわちレース走行中は
路面の状態により 風圧によりコーナリングの遠心力によってタイヤが色々な形で地面から浮き上がるがこれをいかに
して抑え 常にタイヤを接地させてエンジンからのパワーを完全に駆動力を用い またステアリングコントロールを
正確に行い確実なブレーキ作用をはたらかせるかである。そこでロードホールディングを良好なものにするためには
サスペンションをどのようにチューニングするかが問題になってくるが以下簡単な基本的理論を基にその作業内容を
説明しよう。
=バネ上質量(スプリングマス)とバネ下質量(アン・スプリングマス)=
自動車の構造の全体を2つに分けて 1つをシャシ及びボディに 他の1つをアクスル及びホイルとすると その中間に
スプリングが介在されている事になる。言い替えれば シャシ及びボディの荷重は直接スプリングに加わり それを
スプリングの下方にあるアクスル及びホイルが地面との間で支えているのである。そこでストックカーにあってはスプリング
の上面に有る物体の運動を出来るだけ少なくし しかもスプリングの上方でのみ行われるようにし また路面の状態に
左右されるホイルの運動は出来るだけスプリングより下方で行ってボディにまで波及しないように考慮して快適性を
重視している。ところがレース出場車にあっては路面のコンディションに左右されるホイルは出来るだけ上下運動を
少なくして常に路面に接地しているようにする。その為には路面から受けるホイルの衝撃が直接ボディに伝わる事に
よって発生する弊害は全く無視されてしまう。
こうしたスプリング上に支えられている重量をバネ上質量と呼びまたホイル タイヤ アクスル ブレーキ及び
サスペンション メンバのように路面の状態に従って上下運動をする運動をする質量をバネ下質量と呼んでいる。
そしてスプリングに支えられているこれら2つの質量のコントロールは 装備されているスプリングの定数に頼ると
同時に 更に理想的な結果を得る為にショックアブソーバが併用されている。すなわちショックアブソーバの一端を
バネ上質量であるフレームに他の一端をバネ下質量であるアクスルハウジングまたはウィッシュボーンタイプの
ロアアームに接続して両者の上下運動エネルギーをその内部に保持しているオイルに伝えて流動させ 熱に変化
させて各質量の運動を減衰させているのである。
スプリングに与えられている質量の一般的な振動はサスペンションの振動解析によって一定方向にのみ働くものだが
スプリング上に与えられているどんな質量でも外部からの作用によって起こる上下運動の振動数は常に一定サイクルに
抑えられている。そのサイクルはスプリングのバネ定数とスプリングに加わる質量によって決まるもので 決して
外力によって左右されるものではない。通常 ストックカーの最も良い乗り心地とされる固有振動数は65〜90サイクル
/毎分と言われているが レース出場車にあってはドライバーが迅速に路面状況を感知し適切なるステアリング
コントロールを行い しかもホイルを出来るだけ路面に圧着させる為 更にサイクルの高い固有振動数を作り出す
必要があり バネ定数を上げる為に相当強いスプリングを使用する理由もここにある。
また路面によって上下運動を生ずるいわゆるタイヤのホップアップ作用をいかにして抑えるかであるが これは
通常150〜200サイクル/毎分がストックカーの理想と言われている。レース出場車にあってはホップ作用のホイルが
いかにして早く元に戻って接地するかが重要な点であるから相当高いサイクルに調整すべきである。
また独立懸架におけるアンチロールバー(スタビライザー)は本来はロール剛性を高める為のものであるが バネ下
質量の固有振動数の上昇にも役立つのである。
=ロール特性=
今まで車の直進走行時に路面の変化に応じるサスペンションの作用及びチューニングの目標について考えてみたが
レース走行にあってはコーナーを回る場合が非常に多くその為にコーナリングテクニックの良否によって勝敗が
決定する事もしばしばである。次にその根本的な問題点であるロール特性について述べてみよう。
周知のようにすべての物体が円運動をする時には遠心力が働くが自動車の周走行において同じ事であり 1つの
円周上をあるスピードで旋回する時 その車に対し遠心力が働いて内側のホイルを浮き上がらせまたそれと同じ力が
外側のホイルに加わり下方に押し付けてボディを外側に傾ける。
これをロール特性と呼んでいる。ロール特性は重心点を中心にしてこの作用が左右のホイルにそれぞれ相反する
方向となって加わるのでその作用のセンターである重心点が低い時はコーナリングの際にてこの作用の先端にあたる
外側ホイルが地面に押し付けられて移動する距離は少なくてすむ。付随して反対側にあたる内側のホイルの浮き上がり
も非常に少なくその為にロール率は小さくなりロール特性を最小限に食い止める事が出来る。
ロール特性を抑える為には重心点を下げる事にあるのでチューニングに当たってはいかにして車高を抑えるか
スプリングをいかにして低いものにするかがポイントになってくるがボディを低くする事のみに専念し 国際スポーツ
法典付則J項のグランドクリアランス(最低地上高)を無視する事は有ってはならない。(レース出場時の公式車両検査
においてガソリン オイル 冷却水を満たし そのエンジンの力でドライバーが運転し 80cm×80cm×高さ10cmの
型板を通過出来る事が条件である)その為には車高を最低限ぎりぎりに押え しかも重心を出来るだけ下げる為
いかにしてチューニングするかによってその結果明白となってくる。
ロール作用は左右のホイルがその中間の点を支点にして左右反対の上下運動をするものでその支点すなわちロール
作用の中心点をロールセンターと呼んでおり 前輪のロールセンターと後輪のロールセンターを結んだ1本の線を
ロール軸と呼んでいる。ロール作用のすべてはロール軸を中心に行われるが言い替えれば横風に当たった場合
または旋回時に遠心力が働いてサイドフォースが作用した時のバネ上質量はロール軸を中心にしてローリングする。
フロント及びリアサスペンションのロールセンターはサスペンションの構造によってそれぞれ異なった高さを持っており
前輪のロールセンターは大体地表面付近にあり 後輪はそれより高い位置にあるのが普通でこれを結ぶロール軸は
前部に向かって下がる為 車の前部より後部の方がロール率が大きくなるのが当然である。
こうしたロールセンターはサスペンションリンケージの組み合わせ方を幾何学的に変化させる事によってある限界内で
自由に選定する事が出来るが 一般の規準としてはウィッシュボーンタイプのフロントエンドでは地表面または
地上10cm(4インチ)以下にあり 一般のソリッドアクスルではそのスプリングがフレームに取り付けられる付近と
言われている。またリアスウィングアクスルでは通常内側Uジョイントより5〜10cm(2〜4インチ)上方とされ ドディオン
アクスルではクロースチューブ付近とされている。全輪独立懸架のリアサスペンションでレースカーやスポーツカーでは
地上5〜13cm(2〜5インチ)くらいと非常に低い位置にある。そこで一般ストックカーをレース出場の為にチューニング
する時は以上のような数値を参考にして 許されるならばトラックコントロールアームの支点を変更してレースコースに
マッチしたロールセンターを選ぶ事が必要である。ロールセンターを下げる事によってボディを傾斜させようとする
ロール特性をコントロールする事が出来る。別な言い方をすればバネ上質量のロール角をコントロールする事であり
またホイルのキャンバー角の変化を規制するものである。
バネ上質量に働くロール特性はフロント及びリアホイルに配分されて作用するが その関係はフロント及びリア
サスペンションのロール剛性によって変化してくる。こうしたロール剛性の大小はスプリングの剛性、スプリングセンター
から左右の支点率 アンチロールバー等によって決まる。
そこで実際のチューニングに当たってはロール剛性を上げる為にバネ定数の高いものを用いてスプリング剛性を上げ
トランスバーススプリングではその長さの延長を考え 独立懸架にあってはトラックコントロールアームの支点を移動して
その長さを増加し またアンチロールバー(スタビライザー)を装備するなどが主な作業である。
=スリップアングル=
非常に低速で車を旋回させた場合の描く軌跡の半径は前輪よりも小さいのであるが 反対に非常に速いスピードで
旋回を繰り返す時は後輪が外側に移動するので より広い半径を持ったカーブを描くようになる。もし車の重さを
支えているタイヤが表面に何らかの力を受けた場合 タイヤはその力の方向に真っすぐ進んでいく。しかし その力が
車輪の平面に直角に掛かってきた場合 例えば直線コースで真横からの風を受けた場合とか コーナーを回っている時
に車が遠心力の作用を受けた場合には車はタイヤの向いている真っすぐな方向に進まず それに対し一定の角度を
もって進む。その角度をスリップアングルと呼んでいる。もう少し柔らかく説明するとスタンダード駆動方式の車にあっては
リアタイヤはエンジンから伝導されたパワーによって駆動され 地表面をグリッドしながら車に対し真っすぐな前進方向に
推力が生まれる。またフロントタイヤにあっても駆動力こそないがリアたいやの推力によってそれと同じ前進方向に
強い推力が働く事になる。こうした力で前進進行しているホイルに対し横風または遠心力の作用によって車の内側から
外側に向かって直角な角度で力が加わった場合にどうなるであろうか。まずタイヤの前面から見てみよう。ホイルの
中心線に直角の力“F”が働いた場合にはたいやは路面に対してバランスを取り戻そうとする反作用が働き タイヤに
極端な歪みを生じさせて横からの力に抵抗しようとする。これをサイドウェイフォースまたはセルフアライニングトルクと
呼ぶ。そしてタイヤは歪みホイルの縦の中心線よりもタイヤの接地面の中心点“A”は図R 左のように大きく車の内側に
移動するようになる。
今度は図R 左のようにホイルを上面から見た場合 同じ横からの力“F”が加わってタイヤの中心線を通る推力との合力
“B”の方向にタイヤは進むようになり しかもその基点は前述のタイヤの歪みによって生じた接地点の中心“A”から
発して“B”を結んだ角度となる。その為車をそのままの進行方向を保持する為にはホイルの中心線をαの角度だけ
余計に修正した舵角を与えなければならない。このαの角度がすなわちスリップアングルである。
こうして横方向から受ける力によって変化するスリップアングルに対し 前輪の場合は舵角によって修正する事が出来
また適正なる舵角を選定する事がドライブテクニックの優劣として表れてくる。しかし リアホイルにあっては舵角による
修正が不可能であるからレース用の車に対しては出来るだけリアタイヤのスリップアングルを少なくする事に努力しな
ければならない。リアに大きなサイズのタイヤを装備しているのはその1例である。一般のチューニング作業でスリップ
アングルを少なくする為にはどのような事をしたら良いのだろうか。それにはスリップアングルを直接影響を及ぼす
主な原因をまず知らなければならない。
a)サイドウェイフォース
ホイルに働くサイドウェイフォースはその力が上昇するに従ってスリップアングルは大きくなる。
b)タイヤのエア圧
エア圧を上げる事によってタイヤの横方向に対する歪み作用が少なくなる為にスリップアングルは少なくなり 反対に
エア圧を下げるとスリップアングルは大きくなる。
c)タイヤの荷重
横方向から作用する力によるタイヤのスリップアングルはその荷重量によって決まるものであるから荷重量が多きければ
スリップアングルは大きくなる。
d)ホイルのキャンバー角
ホイルのキャンバー角を(+)にすればスリップアングルは大きくなり また反対にある一定限度までは(−)キャンバーに
するとスリップアングルは小さくなる。
そこでスリップアングルを抑える実際の手段として
(1)出来るだけ横から受ける力を少なくする方法を考え 特に許されるならホイル幅 すなわちトレッドを広く取るようにし
しかも重心点を出来るだけ下げ遠心力の作用を最小限に留め また横風に対して出来るだけ抵抗を受けないような
ボディ装備にするような配慮が必要である。
(2)タイヤのエア圧は可能な範囲で出来るだけ高圧にする事が望ましい。
(3)タイヤに対する荷重を出来るだけ減少させる方法を考え また重量配分を考慮してスリップアングルを抑える必要の
あるタイヤから他の部分に重量を移動させるような事も行う必要がある。
(4)キャンバー角は出来るだけ(−)角にし 特にリアホイルにキャンバー角が与える事が出来る場合はその車のスリップ
アングルの特性を考え適切なる(−)角を付ける事が大切である。
こうしたチューニング作業は必ずしも四輪同じように行う必要のものではなく 時にはリアホイルのスリップアングルのみを
抑えたい場合はリアタイヤに対して上述のような作業手段を講じ 逆にフロントにはリアと反対作用をするようなチューニ
ング方法をとる事も必要である。結論としてその車のサスペンションの性能によりレースコースのコンディションにより
またドライバーの技量によって適切なる手段を実行する事が大切である。
=アンダーステアとオーバーステア=
今ここでステアリングホイルをいっぱい回したままで 出来るだけ速度を落として旋回すると 半径の最も小さい
いわゆる最小回転半径の時 アッカーマンの法則によりリアシャフトの延長線と角度のついた前輪の内 及び
外輪の直角の線が延長して交わった点を中心とした円周上を旋回することになる。
ところが車の走行速度がある一定以上の速度になった場合に 前述のように車の各質量に対して遠心力が働き
タイヤの横滑り作用が加わって もはや車の幾何学的な軌跡をたどる事は不可能となり 車の周走行に対し
新しく物理的作用が加味されるようになってくる。
分かり易い説明として 車の重心点の糸を結び回転半径の中心点までその糸を延長固定して車を糸で振り回したと
仮定した場合に車は今まで述べたような幾何学的な軌跡をたどりながらも車自体の向きは大部変化して リアまたは
フロントタイヤが大きく外側に向かってスリップする事になる。車の中心点よりボディの前と後ろの重量が等しい時は
それほど問題は無いが もし前部の方が後部より重量が大きい時は車の前部は絶えず外側に流されようとし また
後部の重量が大きい時は反対の作用をする。
しかし こうした物理作用のみをもってオーバーステアやアンダーステアを決定することは出来ない。周走行の運動は
やはりその駆動輪のトラクションによって行われるものであり物理作用と幾何学的作用が常に混成してはじめてステア
リング特性が決定するものである。またレース走行のコーナリングにあってはヒール&トウ走法を用いどんな場合でも
駆動輪のトラクションを抜くような事が無く ブレーキとアクセルペダルを同時に踏み 決してエンジンブレーキの作用を
働かせたり またはクラッチを踏むような事が無いのでコーナリング時に車自体の駆動力がなく遠心力のみが作用する
事は有り得ない。しかしこうした作用を簡単に表現すればオーバーステアとはタイヤのスリップアングルがフロントより
リアの方が大きな場合で正規のステアリングの操作角により更に大きい力で車の前部を円の内側に押し込む作用を
する事でありアンダーステアとは反対にフロントタイヤのスリップアングルがリアよりも過大になるために旋回時は
ステアリングホイルを常に円の中心点に向けるようにしなければならない事である。
このようにアンダーステアの車では同じ周走行をするのにオーバーステアの車に比べ非常に大きな操向操作の力が
必要になってくる。
こうした事を更に簡単に言い表せばオーバーステアとはタイヤのスリップアングルがフロントよりリアの方が大きい場合
の事でありアンダーステアとはフロントタイヤのスリップアングルがリアより過大である事を言うのである。そしてこれらの
ステアリング特性は直接ホイルのスリップアングルによって決定するわけである。その為その特性を変更するのは
いかにしてスリップアングルを変えることが出来るかによって決まる。
=チューニング作業の実際=
重量配分:乗用車本来の目的は人を乗せて運ぶ事であり 決まった全乗車人員が乗ってフルロードになった際に最も
有効的なサスペンション機能を発揮出来るように設計されているものであるから どんな型の車でも定員総数が乗車
する事によって荷重分布は平均になる。しかしスピードレースに出場する時はドライバー1人が限度でその為に重量
配分も不平均となりそれに付随していろいろな障害が表れてくる。試みに荷重量を後方に多く持ってゆけばオーバー
ステア現象が強くなり反対に車の前部に重心が移動すればアンダーステアの作用は増してくるといわれるが実際には
コーナリングフォースが働くところの複雑なサスペンション特性はその車によって違い出来得ればドライバーを含めた
車の総重量を測定したものを基にして四輪に出来るだけ平均した重量配分の方法を考えて各ホイルごとの荷重量を
確認すべきである。具体的な作業の実例を挙げれば
(1)スペアタイヤ等の保持が義務付けられた場合はドライバーズシートの反対側すなわち右ハンドルの場合は左側に
寄せるようにして付ける。
(2)レース距離が短い時にはガソリンタンク内部に適性仕切りを入れて重量配分を考えた部分のみを使用する。
(3)ヒーター らじおその他レースに直接関係の無いものはすべて取り外す。
(4)フォグランプその他余分なライトは取り外す。
(5)許されるならばエンジン側のバンパーを取り外す。
(6)直接影響の無いと思われるような内装関係も出来るだけの軽量化を考え決して疎かにしない。
こうした作業にほかに個々の車によって色々な方法が有ると思うがコースを走行して更に補強対策を講ずべきである。
また極端な軽量化を計った為に公式車両検査において規定重量以下と判断されてウェイトの追加重量の積み込みを
命ぜられた時はむしろ重量配分の絶好のチャンスであるから一番荷重の少ないホイル側に乗せるべきである。
=タイヤ圧=
アンダーステアもオーバーステアも前後輪のおタイヤのスリップアングルに大きな影響があり またステアリング特性の
安定もタイヤそのものに負うところが大きく 更にサスペンションの強化によってタイヤの早期摩耗は避けられないで
あろう。スピードの上昇による強度のサイドフォースによってタイヤは外側に押しつぶされ エア圧が少ない時はタイヤが
ホイルから離脱する事故もあり得るのでレース出場の際はタイヤ圧を通常より高圧にするべきである。また4輪必ずしも
同じ圧力にする必要は無く 特にホイルに加わる荷重が平均で無い場合は荷重に比例した圧力に調整する。例えば
フロントエンジンの場合はフロントタイヤに リアエンジンの場合はリアタイヤの圧力を上げるというようにする。
また走行中にオーバーあるいはアンダーステアのステアリング特性の弊害をドライバーが訴える時はエア圧で調整
する事もひとつの手段である。すなわちオーバーステア気味な場合はフロントタイヤの圧を下げてスリップアングルを
大きくし またはリアタイヤの圧力を上げてリアホイルのスリップアングルを抑える。アンダーステアの場合はまったく
正反対な方法を用いる。いずれにしろサーキットにマッチしたタイヤ圧を決めるには少なくとも1周ごとのテストで圧力を
変えて数回走行しドライバーの意見によって決定すべきである。また路面が濡れた場合には全体的に圧力を1〜2割
下げるようにしてホイルのスライディング作用を出来るだけ少なくするようにする。
=フロントアライメント=
それぞれのコースを十分吟味してコースにマッチしたフロントアライメント調整を行わなければならない。ただむやみに
コーナリング時の特性のみを考えてチューニングするとストレートにおいて思わぬ弊害が発生する事もあるのでまず
コースのコーナーとストレート部分の比率を勘案し コーナーに重点を置いたアライメントにするか またはストレートで
威力を発揮出来るようにするかを決定しなければならない。
ストレートを走行する場合はファクトリーの定めたアライメントの各数値に合わせて調整する事が良策であるが強い
コーナーがいくつもあるコースにあってはコーナリングにおいて重心が浮き上がり 更にサイドフォースが働いて外側
ホイルを外側に押し倒そうとするために こうした弊害から少しでも逃れ しかもスリップアングルを抑えるために
キャンバー角を一般調整方法とは逆に(−)角に調整する事も必要となってくる。トーインも操向時のトーアウト作用に
対し 更にサイドフォースが働く為にコーナリングではフロントホイルを更に前開きにする力が働くのでこれの防止
対策として強いトーイン角が必要となってくる。
=アンチロールバー=
独立懸架のロールセンターを下げロール作用を抑える方法としてアンチロールバー(スタビライザー)を取り付ける
事が良策である。多くのクルマがフロントにはファクトリーですでに装備されているものもあり また予備品として用意
しているところもあるが中にはぜんぜん取り付ける事を考えなかったような設計のクルマも 特にリアサスペンションに
多々有る。新規に取り付ける場合はそのクルマのサスペンションに合致するサイズのバーを他車の部品から探し出す
事はそれほど難しい事ではない。ただ注意を要する点はロアアームに完全にマッチしないものをムリに取り付けたり
またはバーを加熱加工するような事は折損事故のもとになるので注意しなければならない。
=コイルスプリング=
独立懸架にはほとんどコイルスプリングが使用されているが前述のようないろいろなサスペンションの特性を発揮
させる為チューニングするにはどうしてもバネ定数を上げなければならない。しかしスプリングを強化したからといって
車高が上昇したりアライメントが極端に変化するような事があってはならない。
<交換>同じサイズで更にレートの高いものが有れば最も理想的であるが選定に当たってはあくまでもスプリングの
高さは自由高ではなく 取り付けた場合の車高の変化が重要な条件となる事を忘れてはならない。
=スプリングレートの上昇手段=
今まで使っていたスプリングをそのままでもう少しレートをあげたい場合には10〜20mm厚さでスプリングと同じ幅の
ワッシャ(スペーサー)を作り しかもスプリングに接する面に滑り止めの溝を付け 材質を出来るだけ軽量金属を
使用し スプリングシート内にいれる方法もある。また金属の代わりに厚めのゴム板を入手し前述と同じ方法で加工
する事も出来る。一方スプリング張力が減退し走行中にノーズダイブの現象を示す時 または速やかにレース用
フロントエンドに切り替えたい時スプリングを取り外すことなくゴム製のスペーサーをスプリングのコイル間に挿入する
事によって簡単に補正出来るのでレース場まで自力走行する場合はスプリングを普通のレートにしておき レース
出場の時だけスペーサーを挿入する方法もある。しかしコレはあくまでも一時的な手段である。
=リアスプリング=
ただリアスプリングのレートを上げてロール作用を極端に抑えようとする時 コーナリングにおいて横転し易くなるので
十分なるテストを行ってそれぞれのクルマに最も適した補強対策を行う。
=ショックアブソーバ=
バネ上質量とバネ下質量とを接続して それぞれの上下運動のサイクルを規制し しかもツーリングカー以上の
サイクルに上げる為にはショックアブソーバのモデフィケーションが重要な役割を示してくる。
○テレスコピックタイプ:シングルアクション(単動式)のものが付いている時には必ずダブルアクション(複動式 すなわち
伸びる時だけではなく縮む時も作用するもの)と交換する必要がある。それでも満足出来ない場合は他車のパーツで
もっと強いものを選ばなければならないが取り付けに当たって特に注意する事は両端のマウンティングが同型である
ことは勿論 ショック全体の伸び切った長さと いちばん縮んだ場合の長さがそのサスペンションの伸縮運動量より
大きくなければならないことである。ダブルアクションは内外各シリンダーに移動するオイルの流通量をバルブによって
規制しピストンの上下運動に抵抗を加えるものであるから流通路のバルブを押さえるスプリングの強弱調整によって
クッション作用を自由に調整する事が出来る。そしてほとんどのタイプはバルブスプリングの調整が可能である。
すなわちショックの下端を万力にはさんで上部シリンダーをいっぱい縮めた状態にして右回転すればバルブスプリングは
強くなり 左回転にすれば反対に弱くなってそれぞれの目的に沿う事が出来る。
以上の方法でもまだ不十分な時はショックヘルパーと呼ばれる小型コイルスプリングを利用するが これにより特に
ショックアブソーバの縮む際の抵抗が増す。まずショック上部にスプリングブラケットを締め付け コイルスプリングを
挿入して適度の強さに押さえて下部のブラケットを固定する。または不必要になった時にはいつでも取り外す事が出来る。