RVF−R(モトクロッサー125フレーム+RFVCエンジン)でレースを走れていた頃は
ディメンションやサスペンションに何の不都合は無かった 当たり前ですレーサーなんだから。
製作時に一番難儀なのが普通では250エンジンが125フレームにスペースが無く載らない事です。
しかし125に載せなければ私が思う理想のマシンでは無くなるからです。
当時のCR125Rは250よりも一回り車体が小さく「痒いところに手が届く」ような感覚でした。
モトクロッサーに乗った人なら分かると思いますが トレールとレーサーでは
天と地ぐらい差があるのです。
ギャップやジャンプを気にすることなくアクセルを開けていけるマシンでした。
ソレに加え製作時に軽量化にも気を使い実測で車重98kg(ガソリン5L・オイル搭載)までになりました。
この理想的なレイアウトに扱い易いXRエンジンであれば 遅い訳がありません。
当時雑誌のインプレでウィリー松浦さんが乗った時このマシンを貸して欲しいと言われたり
ホンダワークス杉尾良文さんにレース場で声を掛けられ
「乗ってくれと言うならいつでも乗るで〜」と言われた事もありました。
そういうマシンにつき連勝に次ぐ連勝(エントリーはモトクロッサーと同じオープンクラス)、
少しやり過ぎたのかレギュレーションに規制が入るようになりRVF−Rが走れる場所が無くなりました。
フレームとエンジン形式が同一のモノでないといけなくなり XRベースでやるしかなくなったのです。
時はME06も終盤の時。(1995年前後)
レーサーの足回りが当たり前の感覚ですので 一般市販車のサスには乗る気にならないぐらい低レベル。
そしてME08が発売されモデルはスーパーXRベースに移行しました。
一般市販車とモトクロッサーのレベルがそんなに差があるか説明出来る方居られますか?(構造の違い)
感覚的には砂利トラとレクサスぐらい違う。
XRフレームのRVS−R製作に着手。
RVF−Rレベルもしくは同等のレベルにXRを引き上げるにはノーマル構造のリンク形式(プロリンク)を
捨て去らないといけなかった事は経験上理解していた。
ホワイトパワーやオーリンズなどのショックに変えるとたしかにグンと良くはなるのですが
レーサーレベルにはなりません、やはり動きに粗雑感は残ってしまうのです。
はて どうしたものか???
当時 店には様々な車種やパーツが転がっていて まずモトクロッサーのリア周りを移植出来ないか試してみた。
スィングアームの幅・シャフト径やらチェーンライン・・・ 工夫する気にならないほど合わない。
要はXRの1.5倍 同じスィングアームストロークでリアショックを圧縮する動きを作りたいのです。
なんとかCRM250のスィングアームを取り付ける事が出来た チェーンラインもほぼいける。
(CRM250のスィングアームは角パイプ構造でXRよりも随分軽量で強度がある ただ5cm長い事が吉と出るか
凶と出るか・・・ ※スィングアームに溶接などは強度が無いので加工は不可)
リンクは型を作り寸法を出しアルミブロックを削り出して試作を作った。
しかし失敗 圧縮レートがまったく合わない。
そんな時 XRを企画・試作していた熊本製作所の担当からのアドバイスもあり
CRM250の三角リンクを試したところ 理想的な動きに近かったがショックとのジョイント幅がまったく合わない。
ソコはウチの加工を駆使してジョイントに成功。
問題はショックとの相性です、車重を比較して重いレーサーのショックを入れるも レートが合わないので
レーシングサグさえままならない。(柔らかすぎた)
そこで外品のスプリングを探したところ「アイバッハ」から1.5倍レートほどのスプリングがあり即入手。
何とか通常のサグ出しが出来るようになったがダンパーが完全に負けていて ただのスプリングだけの動き。
そこでお付き合いがあった「BABANAショック」さん(故馬場善人氏)に固めてもらえるか相談。
私は安易にフロントフォークのように番手が大きいオイルを入替えるだけで良いと思っていたが
リアオイルは通常一手しかなく フォークのようなバリエーションは無いとの事。
ウチのデルタプロリンクの造りを話すと「今後の勉強になるので是非協力させてくれ」との事。
前向きな人柄で非常に助かった。
年2〜3回のやり取りで3年の月日の結果 やっと実用段階にまで仕上がった。
こうしてデルタプロリンクはXRフレームにボルトオン出来るまでになった。
そんな矢先スプリングを入手していたメーカーが無くなり 作れなくなった。
第一次生産中止
しかし使えるスプリングが新しく出てきたので生産復帰。
リアショックは新型が出る度に進化していった。
そんな時スィングアームや各パーツがゴソウダンパーツで第二次生産中止。
しかし良い時代になったものでオークションなどでパーツはユーザーさんの方で確保してもらう事で
コストも下がり 生産再再開。
そして今使っているショックが出て 新品を加工することなく使えるモノになった。
それまでは全長が少し短く ショックを圧縮し始める角度がやや甘かったのです。
ただ難点は通常ルートでは手に入らない特別管理部品に入っており まず一般ユーザーでは
入手は出来ないのです。
デルタプロリンクはスィングアーム側にリンクが付いている事で車高はユーザーさんの好みに製作出来、
ノーマルプロリンクのように車高を変えてもサグを取り治す事はありません。
私自身はレース当日のコンディションに合わせ マディには車高を下げ 条件が良いモトクロスコースでは
車高を上げてリアサスストロークを稼いでいました。(最大380mm)
=デルタプロリンクの利点=
こうして現在かなり高いレベルの仕上がりを見せているデルタプロリンクですが
当初スィングアームが長い事がどう影響するかが気になるところでした。
普通に考えられる事は直進安定性が増す事、反面 車体が寝にくくなる。(倒しにくくなる)
私が望んでいた事は
1.)ジャンプの踏み切りで瘤のようなものにリアが引っ掛かると
空中で急激に車体の向きが変わる事を緩和出来ないものか。
モトクロッサーの多くは上記のような現象が出ると着地でハイザイドを起こし転倒する事が多い。
2.)二連ジャンプを飛ぶ時にスピードが足らなくて2個目に引っ掛かった時
大きな衝撃とともに失速する。コレを前に押し出してくれる衝撃吸収が良いサス。
3.)コーナーでリアを流しながらアクセルオンで流れが緩やかになる事。
(あくまでもトラクションしつつテールスライド出来るコントロール性)
以上が解消出来ないものか と。
モトクロスコースで走り込みを行った結果 1.)はまず狙い通り緩やかになった。
XRフレームはある程度“しなり”があることもマッチングが良かった。
2.)着地の衝撃は比べものにならないほど軽減され 前に前にと送ってくれるようになった。
3.)カウンターを切りながらも加速できる 途中でグリップが食いついてもハイサイドに
繋がるような挙動は一切無し。
=予想外の事=
今のモトクロッサーはハイスピードコースに対応して昔に比べると硬めにセッティングされています。
着地時にボトムした後 一度リバウンドしてしまうのです。
デルタリンクはそのリバウンドが無いので着地と同時に加速に入れるので
車体の半馬身前に出れるのです。(実際コレで楽に前に出られ助けられました)
またズルズルのマディ状態で真っすぐ走るのもままならない状況の中
嘘のようにスイスイ走れる事 トラクションが良いのとスィングアームの長さが効力を発揮したようです。
実話:当時参加していた4サイクルモトクロスレースの前日 台風が来て大荒れ状態。
流石に当日はレース中止となりましたが 遠方からせっかく来られたエントラントの方には
自己責任で走っても良いとの事。
ただしコース外に落ちたら助けられない ブルがスタックするほどの状態なので。
ウチのチームはそれぞれ走り出した、私にいつも絡んでくるXR270が初めは追ってきていたが
すぐに居なくなった。パドックで休んでいるではないか!
「走らなきゃ」と言うと 「まっすぐ走れないし 登りも上がらない」と言うではないか。
「うっそ〜」どれどれバイクを交換して走ってみた、確かにリアタイヤが空回りするだけで
右に左にまったく落ち着かない 直線で加速出来ないので登りではすぐスタック・・・
私も1周回ることなく帰ってきた、でもRVF−Rは普通に走れていた。
10分ほど周回してXRのオーナーは帰ってきて「なんでこのRVS−Rは普通に走るんだ!
こんなんずるいわ〜」と言っていた。
意図せずにここまでの仕上がりになっていた事に私自身驚いた。
キャスター角を変えなければ実際“立ち”が強い特性は出ず クルクル回れる
ニュートラルなハンドリングは変わらなかった。
また非常に滑りやすい路面の登りや下りの斜面を斜めに走る時 アクセルオンやブレーキングすると
フロントやリアが流され易い、そんな場面でもしっかりグリップしてくれる。
走っていると体感がスムーズなので分からなかったが その走りをビデオで見ると驚くほど小刻みに速く動いている。
道理でカラダに路面の衝撃が伝わってこない訳だ と納得できた。
ウチのチーム員にRVS−Rに乗せてやると皆このデルタプロリンクを付けてくれと言う。
もともと商品にするつもりは無く お店のワークスマシンのみに付いていれば良いと思っていた。
そんなデルタプロリンクユーザーの間では「猫足」と呼ばれるようになった。
モトクロッサーよりしなやかなサシシステム
実際 スプリントレースで回りはモトクロッサーばかりの中
XRはウチだけ・・・
常勝とまではいかなかったですけど何度かは優勝できた戦歴があります。
時代は変わりモタードが増えていく中 ロード仕様にも依頼があり装着するようになっていった。
コーナーの切り返しなどでの揺り返しやコーナリング中にアクセルを入れていくとグリップを失うことなく
トラクションしてくれると好評であった。
そんなデルタプロリンクもあと数本で終了
寂しい限りです。
=END=
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