S20型排気量アップ構想この頃ロータリーはM12A型でレシプロ換算で2.292ccに相当する。L24型エンジンの事も有りS20型エンジンを
容量増大した場合について検討。シリンダーブロックとヘッドはそのままとし シリンダーライナーの肉厚を薄くする事で
ボアアップし それに合わせてピストンを新製する計画を構想。2.2リッターエンジンが完成、台上試験結果は無調整で
軽く270馬力が得られトルクカーブもフラットとなり非常に期待が持てるエンジンに仕上がる。
この結果エンジン容積を増大したがシリンダーヘッドの吸排気関係はそのまま使用していたことから「吹かし実験」に
おける吸排気関係に疑問を持ち 改めて「吹かし実験」と実機による台上実験との関係を見直し。
「吹かし実験」を中心に出力向上を進めた場合には吸排気バルブ径とポート径を増大して充填効率を上げる結果として
馬力は上がるがトルクカーブの凸凹が大きくなり走りにくいエンジンになる。そこで再度燃焼室関係を見直す事で試作した
エンジンで実機実験を繰り返した結果 吸気を多球形、排気をペントルーフ形状とした燃焼室が馬力が上がりトルクが
フラットになる性能結果を得られた。
こうして得られたデータを組み込んで排気量は上げず燃焼室改良のみで性能向上すべくカムシャフトのオーバーラップと
リフトを見直しインジェクションの燃圧変更で レスポンスの良いエンジンに仕上げる事が出来た。これによってコンス
タントに260馬力が出るようになり 最高で264馬力が得られた。このエンジンを搭載したGT‐Rが72年10月
富士マスターズ250キロのTSレース予選で黒沢が1分59秒70をマークする事が出来た。
※何故ボアアップエンジンS22型に着手しなかったか。
すでに↑上記に記したS20型エンジンベースのボアアップ版2.200ccエンジンは試作完成されていて台上実験で
無調整で軽く270馬力が得られトルクカーブもフラットで非常に期待の持てるエンジンに仕上がっていた。
73年1月にGT‐Rも新しい “ケン・メリ”のボディとなったハードトップが登場して 車両寸法もひとまわり大きくなり
レース向きのクルマとは言えずポテンシャルが高いものとは言えなかった。いつまでも旧型となったクルマでレースを
続けるわけにいかなくモデルチェンジの時期ともなっていた。そして世は自動車の排気ガスが大気汚染の元凶として
社会問題となっておりレースどころではなくなっていたのも事実です。しかしスカイラインGT-Rは“2.000ccで何処まで
性能を追求出来るか”と言うコンセプトが原点で 実際は2.000ccのままで行く事となった。
1.800km毎にオーバーホール設定 エンジン許容回転:10.000(〜12.000)rpm
=吸気装置=
当初ウェーバー使用⇒三国工業製ソレックス40PHH⇒↑ 〃 44PHH⇒ウェーバー44(ワークス)
⇒最終:ルーカス機械式低圧燃料噴射装置(スライドバルブ方式 下記↓解説) ‘69 8月27日4DRに投入
エアホーン:長さ選定 インジェクターの位置選定(その都度「吹かし実験」でベストを設定)
インマニ:マグネシューム合金に変更
=エンジン=
開発前提
シリンダーヘッド・カムシャフト・ピストン改良を中心に「吹かし実験」にて常に実施
回転のレスポンス向上の為回転部分の慣性モーメントについて常に全体的に見直す。
カムシャフト:(その都度「吹かし実験」でベストを設定)
ヘッドガスケット0.8t&ハイコンプ軽量鍛造ピストン(一本リング)
バルブリフター焼付き対応:ヘッド側に燐青銅ブッシュを鋳込み対策(初期段階で)
コンロッド:チタン合金の鏡面上げ
クランクシャフト:動バランス取り(センター出し含む)及び鏡面仕上げ
シリンダースリーブ:クロームモリブデン鋼削出材
シリンダーブロック内:バリ取り 鏡面仕上げ950
フライホイル:軽量タイプ新設
潤滑:ドライサンプ方式
=点火系=
点火方式:CDイグナイター(コンデンサー放電トランジスター式)及びプラグギャップの見直し
=排気系=
エキパイ:独立型等長式 R380〜383同様モナカ型合せ彫金等長管
マフラー:全長が短い方がパワーが得られ軽量化にもなり テール部をボディサイドに斜め横向きに出し方式、テール
パイプ出口をデヒューザー型に加工(形状は円形パイプから扁平デヒューザー出口までの形状変化を断面積が同じに
なるよう配慮加工) 結果:低速トルクも向上、中速域のバラツキ解消 ただ耐久性に難有り〜ファクトリーのみ採用
ルーカス燃料噴射装置:Rの場合 低圧機械式ポンプをコックドベルトで燃料を加圧し レギュレータによって 10kg/cuに
一定に調圧してメータリングディストリビュータに送る。メータリングディストリビュータでは スロットルバルブ開度と
連動して作動するカムにより制御されるシャトルのストロークによって燃料を計量し 点火順序に従って各気筒の吸気管に
設けたインジェクターに分配し噴射する。従って1回の噴射量はシャトルの径(断面積とストロークで決まるが 大量の
噴射量を必要とする場合(すなわちシリンダー容積の大きい場合)には シャトル径の大きなものが設定されている。
スライドバルブ方式:スライドバルブ方式はポート径と同一径の開口部を持った仕切り板を移動させる事により 全閉から
全開まで制御する型式である。この方式は全開時に通路内の抵抗物が一切無くなる為 バタフライバルブ式の欠点は
解消するが摺動面のクリアランスが必要な為気密性が悪い事 吸入負圧によってバルブが引っ張られる為開き始めの
作動がスムーズで無い事 構造が複雑になる事などの欠点が有り レース用エンジンではこの長所を活かして用いられて
いる。張り付きに対しては従来の鉄製の3mm厚をジュラ系アルミ合金の10mmにし ローラーベアリングの潤滑は封印された
グリスによりベアリングの当たり面を鏡面仕上げで対処。
ガソリンエンジンの空気、燃料混合システムは基本的に気化器と燃料噴射(フューエルインジェクション)とに
分けられる。気化器は構造が簡単でコストも安いがベンチュリーの負圧変動によりエンジンの要求する混合比が
得られ難く長いマニホールドによって混合気を分配するので各シリンダーへの配分もよくない。特にレーシング
エンジンは限られた排気量の中で最大のパワーを出さなければならないのでエアヒューエルレシオ(空燃費)に
対する要求はよりシビアであり広いパワーバンドも有効であるが 気化器の固定ベンチュリーは構造的にこの
両者を満足する事が難しい。燃料噴射は燃料に圧力をかけ各シリンダーの近くにノズルによって噴射するので
適正な混合気を各気筒平等に配分出来 ベンチュリーが無いので吸入抵抗も少ない。燃料噴射の構造は燃料
ポンプによって加圧された燃料をマニホールド内に噴射する(間接噴射)。その為気化器のようなベンチュリーを
必要とせず 吸入抵抗が減りパワーアップが可能になる。更に低速時に空気量不足から混合比が薄くなる事も
無いのでパワーバンドも広くなる。ノーマルカーの燃料噴射は噴射時間をコンピュータによって計算し始動直後は
濃く スロットル開度の小さい時は薄くといったコントロールを行う。これは主として正確な混合比の為でトヨタEFI
ニッサンECGIなどがこの方式である。一方レーシングカーの場合は出力や加速時の応答を重視する事から
定められた噴射量を各吸入タイミングに噴射し 且つ噴射の微調整が可能な機械式を採っている。この方式は
ルーカスやクーゲルフィッシャーが有名で コスワースはルーカス、BMWはクーゲルフィッシャー、三菱R39Bは
三国製。
シリンダーヘッド:K4改
エンジンの高回転化により熱量も上がり 冷却効率を上げる為にウォータージャケットの見直し(ヘッド各部に透明な
樹脂板を張り 流れに渦が出る部分などに対策を施した)
吸入効率の増大に対してシリンダーヘッドを改修、吸入ポートや燃焼室に粘土を盛り付け形状を変え真空ポンプで空気を
引いて空気量を測定。
カムシャフトは作用角を広げ過ぎるとトルクが悪化、バルブリフトを増大して方が有利。エンジン最高回転数とバルブ加速度
との兼ね合いで作用角とリフトの両面から種類を選定。
最終燃焼室形状をセミペントルーフにする事(IN:多球形 EX:ペントルーフ形)とカムシャフトの作用角とリフトの
見直し インジェクションの燃圧の見直しでレスポンス向上し 264PSが得られるエンジンが出来上がった。
=クラッチ=
・クラッチマスター : ノーマル5/8 ”
クラッチオペレーティングシリンダー:ノーマルGT‐R用11/16 ”
クラッチホース : ノーマルゴムホース
=サスペンション=
基本的にスプリングは柔らかめ(スプリング:等長ピッチから不等ピッチコイルに変更)で
ロールはスタビライザー(F:Ф24 R:Ф19)で抑える方向のセッティング。
=空力=
ライトカバーを形状変更 ボンネットやフェンダーに段差を無くした。
フロントスポイラー:4DRに比べ空力が空気抵抗は8.5% 揚力18%向上したが フロント揚力が大きくなった分
フロントにスポイラーを設置、空気抵抗は1〜2%増加するがフロント揚力11%軽減 テールウィングとのバランスがベスト。
FRPドアに関してはボディとの段差で乱気流が発生し空気抵抗が増す事が判明:対策として1つ1つ手合わせで取り付け
対処を行う。
オーバーフェンダー:ブリスターに変更により空気抵抗が更に低減
=ブレーキ系=
フロントブレーキ:住友Mk63 4ポットキャリパー、ベンチレーテッドディスク採用(ディスク系ノーマル)
フロントブレーキ:キャリパー MK63型(ベンチレーテッド)
パッド:参戦レースにより選択
フロントディスク:ベンチレーション254mm
マスターシリンダー : 7/8 ”
マスターバッグ : ダイレクト(無し)
OPT:スプラッシュガード
前ブレーキホース : ノーマルゴムホース
リアブレーキ:アルミフィン付ドラムからディスク化
(ドラム仕様)
リヤブレーキ:シリンダー 11/16 ”
リヤドラム : アルフィンドラム
シュー:参戦レースにより選択
後ブレーキホース : ノーマルゴムホース
=ホイル=
最終ホイル 神戸製鋼マグネシウムホイル フロント:8.5J‐14inch リア:11J‐14inch
=その他の装備=
ボンネットの開閉はノーマルヒンジ式からボンネットピンに変更
競技規定によりフロントガラスは合わせガラスに変更(ワークス;白無地,セミワークス;ボカシ入り)
雨天以外はワイパーアーム取り外し
1972 3 20 富士300kmスピード F-6 スーパーT C 15 高橋 国光 HTGTR 1 2’00”41 1 1 ←50勝 4月 レースドニッポン ← ブリスターフェンダーGT-R登場 5 3 日本GP F-4.3 T-b 高橋 国光 HTGTR 2 1’32”22 4 1 ←ロータリーに惜敗
5.21 ‘72全日本オートスポーツトロフィーレース スーパーTS 高橋国光 ←ロータリーに惜敗 6 4 富士グラン300マイル F-6 スーパーT C 15 高橋 国光 HTGTR 2 2’00”70 1 1 ←51勝 ← リヤディスク初採用 7 2 日本オールスター F-4.3 T-B 2 黒沢 元治 HTGTR 3 1’33”92 2 ←ロータリーに惜敗 9 3 富士インター200マイル F-6 スーパーT C 15 北野 元 HTGTR 2 2’01”79 1 1 ←52勝 ワークス体勢で勝った最後のレース
10 1 ヤングニッポン F-4.3 2 V 52 久保田 洋史 HTGTR 8 1’35”00 3 1 10 10 富士マスターズ250km F-6 スーパーT C 15 黒沢 元治 HTGTR 2 1’59”70 18 14 ←ロータリーに惜敗 ←富士6kmコース 2分を破る 増田カペラに敗れる ワークス最後のレース