空力を考える

スカイラインは分類が箱型と言うだけに空力学的には非常に不利である。

多くのスポーツカーは流線型のクーペ型が主流で 有利なのは明らか。

スカイラインの場合メーカーのコンセプトが「不利な要素を技術力でカバーするための実験室」

としているので あえて箱型で挑んだのであった。

青地康雄総監督の指揮の元 日産ワークスはどのような検証を実施していったのだろうか。

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=より速く走る為に生まれ変わったハードトップの素性=

ハードトップGT-Rは4DRGT-Rを基本にしてレースで得たデータを元に徹底的な見直しが行われた。

洗練されたボディスタイルは変わることなく 内装にも一層スポーティ化された車輌となった。

全長は65mm短く 全高は15mm低くなっている、またホイルベースは70mm短縮され2570mm。

こうした車輌サイズはレースでの運動性を念頭に変更されたものです。

ホイルベースが短縮された事でコーナリング性能の更なる向上、

全高が小さくなった事は当然空気抵抗が良くなる事に加え セダンに比べ前後ウィンドウガラスを大きく傾斜化、

エアロダイナミクス(空気抵抗軽減)を考慮した変更であった。

全幅が広がった事により(オーバーフェンダー標準装備)ワイドタイヤの使用範囲が広がる、

コーナーでの踏ん張りが効く方向となってコーナリング性能を上げるのに前後サス構造も伴い有利であった。

また基本ボディだが業界の通例で4DRからハードトップにマイナーチェンジすると

補強で重量が増すのが常識だが スカイラインハードトップの場合

剛性アップしながら40kgの軽量に成功した。

車輌重量:PGC10 1.120kg  KPGC10 1.080kg

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4DRGT-Rから始まった検討事項(青地康雄氏の文献より)

空気抵抗の低減

1.)ライトカバーの影響
2.)ボディ各所の段付き部の影響
3.)アンダーカバーの効果
4.)オーバーフェンダーの形状
5.)オイルクーラーの取り付け位置と取り付け方法の影響
6.)フロントフードにノーズカバーの取り付けによる影響
7.)リアテールウィングに対する基礎的実験

ライトカバーはレース用にするに当たってライトを取り去ったので その穴を埋める為にカバーを取り付けたが
                          
                                  PGC10R

その形状がどう影響するか調べた。またドアや各部の取り付け部にわずかな段差があっても抵抗になるので

ガムテープを貼り面一になるようにすると どの程度空気抵抗が減少するかを調べた。

軽量化の為にFRP製のパーツを採用すると その取り付け部や合わせ面に段差がつきやすいが それが

どのくらいのものかデータで分かれば作業に当たって面一になる事の重要性が理解できる。

アンダーカバーに関しては風洞実験でもコレを取り付けると空気抵抗が明らかに減少する結果が出たが

デメリットもあるので その兼ね合いで結論は持ち越した。結果として作業性の悪化なども考慮しアンダーカバーを

装着してレースに出場したのは極わずかだった。

ワイドタイヤの採用によってオーバーフェンダーを取り付ける事になったが漫然とその形状を決めるのではなく

空気抵抗が大きくならなくて しかもコレがスポイラーの効果を発揮してダウンフォースが得られるなら

一石二鳥になるかもしれないという事でデータに注意したが やはりそれは欲張りすぎであった。

しかし空気抵抗が増大しないような形状にするデータが得られた。オーバーフェンダーに関しては この後も

さらに形状が見直され かなりな変化を見せるようになる。とりあえずオーバーフェンダーが緩い円弧形状に

なっている方が良好であった。

フロントノーズカバー(俗に言うレーシングジャケット)は その形状だけが問題となるのではなく 冷却空気の

取り入れやその出方との問題もあり エンジン出力の向上との兼ね合いも考慮する必要があった。

更にこの部分の形状は車輌のホモロゲーションを取らなければならないという問題があった。

テールウィングはダウンフォースを得る為に将来の取り付けを想定してのデータ取りであった。

ボディ上面の空気の流れは テールウィングの取り付けによって 空気の流れはファーストバックスタイルの

クルマのようになって抵抗が小さくなる事が分かった。

  
KPGC10R 前〜中期                          後期(終盤)


最後のライトカバーは隙間を無くし空力を意識したカタチになった
この全景を見るともうレーシングジャケットと言って良いのではないか。

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6.)フロントノーズカバー(俗に言うレーシングジャケット)は実現しなかったが もし日産が思考し製作したならば
  どんなものになっていたのだろうか。


サニー                           セリカ


フェアレディZ



RX−3


KPGC110R

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=リアテールウィング=

1970 5月以降 PGC10R車輌にて

最高速度向上の為 空気力学的向上をめざし、テールウィングの開発
実験結果 ウィングなし:205km/h ウィング付き:210km/hと向上(エンジンパワー換算:12馬力アップに相当)

10月10日 日本オールスターレース 243台エントリー〜プライベーター杉崎選手の手によってリヤウィングを付けて優勝 
ベストラップタイム 2分05秒85高橋国光が出したが予選でピットクルーの不慮の事故が発生しニッサンファクトリーは喪に服し出場を辞退 
当面の目標としていたR380‐T型のタイム2分05秒02にはいま一歩及ばなかったがセダンタイプの車が05秒85をマークできた事が
驚異的で開発効果が十分発揮出来た。

=AUTO SPORTS記事=


風洞実験にて
10度・20度・30度テスト結果:10度〜効果出ず 30度〜効果有り しかし高速コーナーでフロントが浮き強アンダーステア発生
結果:20度効果有り フロントアンダー出ず この角度に決定









終盤に入り リアテールウィングの見直しが行われた、

幅・全長の拡張も試されたが数値的な変化が無かった為 従来型からの変更は行われなかった。

ただワークス最後の時期に入り パワー増大に伴いフロントスポイラーなどの効果も相まって

リアテールウィングの角度を20〜30度の間に立てられたようだ。

黒沢選手の証言「テールウィングは非常に効果があった、そのうちクルマの性能が上がるにつれ

角度をどんどんつけていったんです」と語っている。

一般公道で走行する場合でも 60km/hくらいからその効果が見られるが その値はまだ小さく

150km/hになればそれに相当した効果が発揮され安定した走行が可能になる。


=フロントスポイラー=

日産ワークスはフロントスポイラーの開発・装着はかなり遅い時期だった。

1971 

5月3日 ‘71 日本GP優勝以降 GT-Rは強いアンダーステアが問題となり サーキットでのタイムは伸び悩んでいた
          :アンダーステア対策でフロントスポイラーが提案

10月10日 富士マスターズ250キロレース 新型サバンナRX‐3デビュー戦  ⇒ ワークスとしてフロントスポイラー装着

予選:高橋国光2分01秒62 黒沢元治2分01秒92 北野元2分02秒55

ロータリー勢 片山義美カペラ2分03秒09 寺田陽次郎サバンナRX-3 2分03秒71

決勝 雨 : 優勝黒沢(ドライ) 2位高橋(オールウェザー) 3位片山(1分遅れ) 〜10位北野(ワイパー故障) →通算49勝

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開発は細かいところを深く探求する事が必須

ニッサンR380の開発過程においても2分の壁は容易には破れなかったことを考え まず現状のHT GT‐Rの姿を十分に知る事を目標として
谷田部高速試験場で定地試験を実施。最高速度 0〜400 0〜1000 各速度からの追い越し加速などを試験し、データを比較検討して
車両性能に対する極限追及の資料を得た。この結果目標に対して実施すべき開発項目は

1.)エンジンの出力向上
 〜中略

2.)車両重量の軽減
 〜中略

3.)空気抵抗の低減と空力特性の向上(スポイラーの開発)

空気抵抗については過去に実施した風洞実験データを再度検討し効果的なものについて規則とにらみ合わせて開発を進める。
空力特性についてはあらためてHT GT‐Rの風洞実験を実施。抗力:8.5% 揚力:18%も4DrGT‐Rより良くなっている。
しかし揚力をフロントとリヤに分けるとHT GT‐Rのフロント揚力は4DrGT‐Rより大きい事がわかり フロントスポイラーの開発に着手する。
フロントのスカートに部にスポイラーを装着するとフロントの揚力は約11%減少し 効力で1〜2%程度増加するが この程度の増加なら
問題ないと思われ テールウィングと組み合わせて実車で確認する価値があると考えられたので開発を進めた。
スポイラーの大きさと取り付け角度は揚力と効力に影響するが まず効果的な角度範囲を求め 実車走行による運動特性をも考慮して
開発が進められた。ある時はリアが流れすぎ ある時はステアリング操舵力が大きすぎる事もあった。
個々の比較実験による効果を確認しながらより良いものにした。
これにより実際目に見えたタイムアップは出なかったが富士6kmコースをコンスタントに2分03秒で走行できるようになった。


セミワークス車で試作検討が行われた。


フロントスポイラー装着初レース時の映像





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その他 

アンダーカバーはPGC10の初期から開発が進められた。

アンダーカバーを取り付ける事で約3km/h上昇することも確認された。

最高速を良くする為に空気抵抗を小さくする事が重要で クルマの下を流れる空気の乱れを

無くすアンダーカバーは有効である事が確かめられた。

デメリットはエンジンルーム内の空気の流れはアンダーカバーをつけることで

悪くなり エンジンからの熱が逃げていかず 吸入温度が高くなる。

また整備性も悪くなる。

また雨のレースではアンダーカバーによりエンジンルーム内が水しぶき状態となり

 エンジンがストップしてしまう恐れがないとは言えなかった。

風洞実験では明らかに空気抵抗の軽減が認められたが 水温上昇が見られた。

結果 作業性の悪化などを考慮し アンダーカバーを装着してレースに出場したのは

ごくわずかしかなかった。

以上の事から 前後スポイラーは飾りではなく 実践に裏打ちされ効果を見出せるパーツであることは分かってもらえたかと思う。オーナーの資質を問われる部分なので充分にご注意を。


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